「赤い丸ノ内線」として親しまれた「500形」電車が日本での引退後に活躍していたアルゼンチンから里帰りを果たし、2017年11月27日、東京メトロの中野車両基地(東京都中野区)で報道陣にお披露目された。
落書きを落として再塗装したり腐食部分を修復したりと、現時点での修復状況は「6割」程度。まだ自分で走ることはできないが、将来的には、車両基地内だけでなく、イベント列車として営業線でも動かせる程度に修復したい考えだ。
「初期仕様」「引退時仕様」「アルゼンチン仕様」を再現
500形は赤地に白帯、その白帯の中にステンレスのカーブを配したデザインで知られ、1957年から現行の「02形」が登場する95年にかけて40年近くにわたって活躍。日本で引退後は南米・アルゼンチンの首都、ブエノスアイレスの鉄道会社に譲渡されて20年以上にわたって地元の足として親しまれてきたが、アルゼンチンでも役目を終え、鉄道技術の発展に貢献した車両として日本に里帰りして保存されることになった。
日本で廃車になった500形は95年からアルゼンチンのメトロビアス社に譲渡が始まり、今回里帰りした4両は96年にアルゼンチンに渡った。丸ノ内線は、電車の屋根のパンタグラフではなく、「3本目のレール」から電気を取る「第三軌条」と呼ばれる方式。ブエノスアイレスの地下鉄も丸ノ内線と近い環境だったため、あまり改造されずに活躍してきた。4両は2016年5月に現地を船で出発し、7月に日本に到着。補修作業が進められ、部品取り用の1両以外の3両がお披露目された。
3両はそれぞれ、丸ノ内線に1958年に登場した「初期仕様」、96年にアルゼンチンに渡る直前の「引退時仕様」、「アルゼンチン仕様」を再現。「初期仕様」は「引退時仕様」に比べてドアの窓が大きく、網棚のスペースが少なくなっている。「アルゼンチン仕様」では、現地の広告や路線図が社内を彩る。
500形は「電気の流れがスイッチの動きで機械的に目で分かる」
現時点では警笛が鳴って前照灯が点灯できる程度だが、東京メトロの留岡正男常務取締役(車両担当)は、
「ちょっとクリティカルな話をしたい。(修復したのは)3両。(車両基地)構内なら動かなくなってもいいが、止まると困るようなところに、やっぱり行きたいと思っていてですね...」
とあいさつ。3両つなげて運行することで、仮に1両が故障した場合でも運行が続けられる環境を作りたい考えだ。将来的にはイベント列車として運行されることもありそうだが、そのためには最新の列車自動制御装置(ATC)を搭載する必要があり、技術的に乗り越えるべき課題は多そうだ。
東京メトロとしては、歴史的車両を保全するだけでなく、制御がコンピューター化された現行車両に比べて「アナログ」な500形を社員教育に生かしたい考え。留岡氏は
「こういった車(500形)は、電気の流れが分からないとメンテナンスができない。逆に言うと、電気の流れがスイッチの動きで機械的に目で分かる。そういうところから電車の基本を学んで、それに基づいて今の車両があることを十分認識してもらいたい」
と話した。
一般向けには12月10日の車両基地公開イベント(要事前申し込み、締め切り済み)でお披露目される。