岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
大統領訪日で、安倍首相を米国人はどう見たのか

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   日本のマスコミは、トランプ大統領の初来日を大歓迎ムードで報じた。ゴルフ接待、高級鉄板焼きや好物のハンバーガー、タレントを呼んでの晩餐会など、数々のおもてなしが紹介された。そんななか、カリフォルニア州に住む友人からこんなメールが届いた。

「安倍首相に何て失礼なんだ。日本の人たちに本当に申し訳ない」
  • トランプ米大統領(右)と安倍首相
    トランプ米大統領(右)と安倍首相
  • トランプ米大統領(右)と安倍首相

「忠実な親しい助手」

   そのメールには、「Japan Suffers Through a Visit from Trump(日本はトランプの訪問を耐え忍んでいる)」と題されたYouTubeのリンクが貼られていた。

   トレバー・ノアの政治風刺のテレビニュース番組、「ザ・デイリー・ショー」で、2017年11月6日に行われた会見の一幕などが取り上げられている。

「皆さん(日本人)は世界で最もパワフルな経済の一つを作りました」

   トランプ大統領が、こう言ったところで原稿を読む顔を上げ、安倍首相を見る。

「パワフルと言っても我々ほどかどうかわからないが。たぶん違う。そうだよね? これからもそうあり続けていくようにしよう。あなたは2番目だ」

   とっさのことで安倍首相が理解したかどうかわからないが、安倍首相が黙ってほほ笑むと、トランプ氏は満面の笑みをたたえた。

   「ワシントンポスト」紙は、「トランプはまるで親が子供を諭すような言い方だった」とし、「日本の指導者・安倍晋三は、トランプの忠実なサイドキック(親しい助手)の役割を演じている(Japanese leader Shinzo Abe plays the role of Trump's loyal sidekick.)」と揶揄した。

   さらに米記者が安倍首相に、「北海道上空を飛んだ北朝鮮のミサイルを日本が迎撃せず、トランプ大統領が失望したと報道された」ことについて質問すると、安倍氏が答える前にトランプ氏がこう割り込んだ。

「私が代わりに少し言わせてもらえば、安倍首相が米国から大量の軍事装備品の追加購入を完了すれば、上空からミサイルを打ち落とせますよ」

   こうした報道に、アメリカのネットなどでは、「米国第一主義を、訪問国でこんなふうにPRするなんて」、「トランプは謙虚さのかけらもない」という声があがる一方で、トランプ支持者は「歯に衣着せぬ、いつものわかりやすいトランプ節だ。アメリカの大統領なのだから、アメリカ第一主義は当然だ。リベラル派はマスコミも国民も、トランプが何をしても何を言っても、アラ探しや批判しかしない」と憤慨する。

「安倍氏は役者だ」

   一方の安倍首相に対しては、「反論もせずにこびへつらっている一国の指導者に、自分が日本人だったら耐えられない」、「首相の自尊心はどこへ行った?」といった厳しい意見もあるものの、「来賓が誰であろうと、敬意を持って迎えるのが日本人であり、日本の文化だ」、「日本人は忍耐強い。安倍首相は一枚上手だ。結局、器が小さいと思われるのは、彼ではなくトランプ氏だ」と、安倍氏を評価する声も高い。

   さらに、「安倍首相を甘く見るな。トランプの忠実なサイドキックなんかではない。そう見せかけているだけだ」という声もある。

「安倍氏は役者だ。日本人は政治や交渉を、アメリカ人とは違うレベルで行う。アメリカ人は額面通りに受け取るが、日本人は違う」
「日本は軍事的にアメリカに頼らざるを得ない。安倍は自分のメンツより、日本の国民の利益を守ったのだ」

   訪日中、安倍首相は、「DONALD& SHINZO MAKE ALLIANCE EVEN GREATER」(ドナルドとシンゾーは同盟をよりよくする)と刺繍のあるゴルフキャップを用意。トランプ氏はつばの中央に大きく、安倍首相は端に遠慮がちにサインした。

   そのことに触れ、「どこにサインしようと、トランプ氏を手玉に取り、ほしいものを手に入れるのは、安倍氏だ」と訴えるアメリカ人もいる。

   トランプ大統領の訪日で、日米の信頼関係がゆるぎないものになったかのように、日本では報道されている。両国で北朝鮮の非核化を目指し、北朝鮮に対する圧力を最大限にまで高めることで一致した。

   「シカゴトリビューン」紙は、「トランプ氏がおだてに乗りやすいのを、最もうまく利用しているのが、安倍氏だ」とし、日本防衛のための米国の経済的負担や貿易不均衡など、トランプ氏が日本に対する批判をほとんど口にしなくなったことを、その成果だと指摘している。

   しかし、トランプ氏は、米国製の武器の日本へのさらなる売り込みで、北朝鮮問題を貿易不均衡是正と米国内の雇用拡大に関連付けることに成功した。

   トランプ氏と安倍氏。いったいどちらが、ほしいものを手に入れたのか。あるいはどちらも手に入れたのか。武器を手に、日本はより安全になるのか。安倍氏は自分のメンツより、日本国民の利益を守ったのか。(随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行予定。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。


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