【健康カプセル ゲンキの時間】(TBS系)2017年11月19日放送
漢方外来、謎の不調を探る!
近年、医学界で注目を集めている治療法が漢方だ。現在、全国の大学病院の7割以上に「漢方外来」があり、西洋医学同様に保険が適用される治療が行われている。
西洋医学とは違うアプローチで病気の原因に迫る漢方医学だが、「よくわからない」という人が多い。そこで、10年間悩み続けてきた体の不調を一発で探し当てる驚きの診察方法や、自宅で簡単に作ることができる「薬膳料理」など、漢方の基本を紹介する。
西洋医学は何種類も薬を出すが、漢方薬はベストの1種類だけ
番組では冒頭、恒例の健康クイズが出された。次の3つの言葉のうち、漢方由来のものはどれか? A:元気、B:健康、C:手当。正解は「元気」だ。あとで説明するが、「気」はエネルギーのようなもので、漢方が患者の状態を見極める重要な3つのポイントの1つだ。
深沢邦之リポーターが、東京女子医科大学東洋医学研究所クリニックの伊藤隆教授を訪ね、漢方医学の基本を聞いた。伊藤教授は西洋医学と漢方医学の違いを、風邪に対する対処法を例にとってこう説明した。
伊藤教授「西洋医学の場合は、熱を下げる薬や痛みを抑える薬、せきを抑える薬などを何種類も出します。漢方薬は原則1つだけ、例えば葛根湯(かっこんとう)です。ただし、選択肢はたくさんあります。漢方薬は複数の生薬を組み合わせて作ります。葛根湯なら桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)など7つ種類を患者の状態に合わせて組み合わせるのです」
漢方薬は副作用がないとよくいわれるが、実は西洋の薬と同様にある。また、日本には純粋な漢方医は存在しない。日本で医師となるには西洋医学の国家試験を通らないといけないからだ。西洋医学の専門医が漢方を勉強し漢方医となっている。だから、日本の漢方医は、西洋医学と東洋医学をつなぐ橋渡し役にもなっている。
では、漢方医は患者の状態をどうやって診るのだろうか。57歳の女性・広井さんが伊藤教授を受診した。10年間体調がすぐれず悩んできた。症状は「眠れない」「疲れが取れない」「手足が冷える」「こむら返り」「便秘」「頭痛」など10数項目もあり、何科に行ってどんな薬を飲めばいいのかわからない。広井さんに対して行う漢方の診察は次の4つだ。「問診」「脈診」「腹診」「舌診」。それぞれの特徴から不調の原因を探し出し、ベストな漢方薬1つに絞り込む。
人間の体は「気」「血」「水」の3つのバランス
問診で広井さんから一通り症状を聞いた伊藤教授はある可能性を導き出していた。漢方には体の状態を見極める独特の3つの概念がある。「気」「血」「水」だ。「気」はエネルギーのようなもので、西洋医学でいう自律神経やホルモンの働きも含む。「血」は西洋医学の血液に栄養の働きが加わる。「水」はリンパ液などの血液以外の体液の流れをさす。
伊藤教授は、「脈診」で広井さんの脈を3本の指でさわった。脈の数を数えるのではなく、脈動の強さを診る。広井さんの脈の力は弱めで、体質は「虚」(きょ)と判断した。漢方では、人間の体質を「虚」と「実」(じつ)で分ける。「虚」の人は虚弱という言葉でわかるように、病気に対する抵抗力が弱い。一方、「実」の人は抵抗力が強い。
伊藤教授「一見、実の人の方が健康的でよいと思われますが、違います。風船の例を考えてください。空気が少ないとしぼみますが、空気が多く膨らみすぎると破裂してしまいます。虚と実はほどほどがよいのです」
次は症状の根源に迫る「腹診」だ。へその周りを押したり触れたりして、硬さや軟らかさ、反発力を診て、虚と実の程度を判断する。
伊藤教授「広井さんの腹力は5段階中2くらいの『虚』です」
「ここ、痛くありませんか?」と、伊藤教授の指が狙いすましたように肋骨の下へ行くと、広井さんは大きくうなずいた。伊藤教授は「この時点で漢方的な診断はついています」と話し、最後に舌を見る「舌診」をし診断を確認、こう語った。
伊藤教授「広井さんの症状は、上半身が汗をかきやすく、下半身が冷える『気逆』(きぎゃく)です。本来なら体内をめぐる『気』が上に上がったままの状態になっています。そのため、足が冷たいのに顔は熱いため熟睡できない。これは自立神経の乱れによる『気』の不調の典型的な症状です。頭痛や疲労などほかの症状もすべて『気逆』が原因です」
伊藤教授は広井さんに漢方薬の「柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)を処方した。体の熱や炎症をとり、気の働きを整える。気の流れを正常に戻せば手足の冷えが改善、イライラも解消し、よく眠れるようになる。もともと人間が持っている免疫力を上げていき、ほかの症状を段階的に消していくのが、原則1種類の薬で治す漢方治療の極意なのだ。
広井さん「今まで不調の理由がわかりませんでした。対処する方法がわかったことがうれしいです。これで50代を楽しく生きられそう」
大雑把に人間を診るから、かえって症状が見える
伊藤教授「漢方には西洋医学ように細分化された病理概念がありません。非常に大雑把ですが、かえって症状が見えるところがあります。私たち日本の漢方医は、東洋の知恵と西洋の学問をミックスした診療を、世界の最先端と思ってやっています」
漢方の概念「気」「血」「水」の3つのバランスが崩れると、体にさまざまな病状があらわれる。自分のタイプを知ることが大切だ。
番組では最後に、自宅で簡単にできる漢方の薬膳スープの作り方を、症状別に紹介した。
【黒キクラゲの黒酢スープのレシピ】
(首や肩こりに効く。血めぐりをよくするキクラゲと黒酢を合わせたスープ)
●材料(2人分)。
乾燥黒キクラゲ3グラム、えのき4分の1袋、長ネギ2分の1本、絹豆腐4分の1丁、チキンブイヨン2カップ、黒酢小さじ1、塩こしょう適量、水溶き片栗粉(片栗粉・水各小さじ2)、ラー油少々。
●作り方。
(1)黒キクラゲは水で戻し、細切りにする。えのきは石づきを除いて半分の長さに切り、長ネギも同じ長さの細切りにする。絹豆腐は一口大の大きさに切る。
(2)鍋にチキンブイヨンを入れて火にかけ、煮立ったらキクラゲ、えのき、長ネギを加えて中火で8分ほど煮る。
(3)豆腐を加えてひと煮立ちさせたら、黒酢、しょうゆ、塩、こしょうで味をととのえ、水溶き片栗粉でとろみをつける。
(4)ラー油をたらして完成。
足のむくみ解消と冷え性改善料理はコレだ
【ハトムギ入りミネストローネのレシピ】
(ハトムギで足のむくみを解消)
●材料(2人分)。
ハトムギ大さじ2、ベーコン30グラム、たまねぎ2分の1個、にんじん2分の1個、じゃがいも1個、キャベツ1枚、トマト1個、ニンニクひとかけ、コンソメスープ2カップ、ローリエ1枚、塩適量、こしょう少々、オリーブオイル小さじ2。
●作り方。
(1)ハトムギは3時間以上水につけておき、下ゆでしておく。
(2)ベーコン、たまねぎ、人参、じゃがいも、キャベツはすべて1~2センチの角切りにする。トマトは一口大に切り、ニンニクはみじん切りにする。
(3)鍋にオリーブオイル、ニンニクを入れて弱火にかけ、香りが立ったらベーコン、(2)の野菜を入れ、さっと炒める。
(4)コンソメスープ、ハトムギ、ローリエを加えて強火にする。煮立ったら弱火にして20分ほど煮込み、塩こしょうで味を調えて完成。
【鶏肉と花椒(かしょう)のあったかスープのレシピ】
(冷え症に効く。温め素材がたっぷり入り、寒い時期におすすめのスープ)
●材料(2人分)。
鶏肉(もも肉)50グラム、長ネギ2分の1本、しょうが(スライス)4~5枚、 花椒適量、水2カップ、酒大さじ2、ごま油大さじ2、塩・しょうゆ適量、なつめ2個
●作り方。
(1)長ネギと鶏肉は食べやすい大きさに切っておく。
(2)熱したフライパンにごま油を入れ、花椒を加えて炒める。
(3)花椒の香りが立ったら、鶏肉を加えて炒める。
(4)酒を加え、鶏肉の表面がきつね色になるまで炒める。
(5)残りの具材をすべて加えて強火で煮込む。沸騰したら弱火にして10~15分煮込む。
(6)お好みで塩、しょうゆを加えて味を調えて完成。