2017年1月に国立感染症研究所が発表した2016年の「梅毒」感染者数が42年ぶりに4000人を超えるなど、梅毒の増加が問題視されている。こうした性感染症の感染者数増は国外でも大きな問題となっているようだ。
2017年11月6日に豪保健省が発表した2016年のHIV・ウイルス性肝炎・性感染症のレポートの中で、「淋病」の感染者が5年間で63%も増加し2万3800人に達したと報告された。
都市部では感染率が99%増加
淋病は正式には「淋菌感染症」といい、「淋菌」に感染することで発症する感染症だ。淋菌は人の粘膜などに存在するが非常に弱い細菌で、粘膜から離れると日光や乾燥、温度変化ですぐ死滅する。
つまり、性交やオーラルセックス以外で感染することはまれで、典型的な性感染症と言える。感染して2~9日で感染部位の炎症や化膿、出血などの症状が表れるが無症状な場合もあり、検査を受けることが重要になる。
抗生物質による治療が可能だが、感染しても免疫は獲得できないため、徹底したセーフティーセックスで予防に努めるしかない。
日本での発生件数は少なくはないものの豪州のような増加傾向にもなく、厚生労働省が発表している「性感染症報告数」ではここ数年は9000人台から緩やかに8000人台へと減少。2016年には8298人となり、10年前から半減している。
しかし、国外を見ると豪州以外に米国も淋病増加に悩まされており、米国疾病対策予防センター(CDC)の発表している性感染症レポートでは、2009年以降緩やかに増加を続け、2016年は46万8514人。人口が日本や豪州よりも多いとはいえ、かなりの報告数だ。
豪州の場合、感染者数こそ米国ほどではないが感染率が急速に拡大している。シドニーなどの都市部では4年間で99%増。都市部の女性に限定すると126%増だ。若年層に感染者が多いのも特徴で、男性では20~29歳、女性では15~24歳の感染者数が最も多い。
人口が約2500万の豪州で、ハイペースで感染者が増加し続けることに豪保健省は危機感を募らせており、レポートの中で「医師や若者に淋病への意識を高めてもらう必要がある」と訴えていた。
先住民と非先住民の間に大きな差も
なぜ豪州で急激な淋病感染者増加が起きているのか。豪州保健省のレポートは性的行動の変化や検査と治療の実践の違い、都市部で性感染症に感染しやすい状況になっているなど複数の要因を推測・指摘しているものの、原因不明であるとの見解を示している。
米CNNは11月5日付の記事の中で、先住民と非先住民では前者の感染者数が6.9倍も高くなっており、検査や治療、予防教育の周知などの面でも先住民は非先住民よりも充実したサービスが提供されていないと指摘する豪州保健当局の声を取り上げていた。とはいえこうした先住民の医療サービス問題は他の病気にも共通しており、これが原因とは考えにくい。
世界保健機関が2017年7月に抗生物質への体制を持った淋菌の出現を懸念する声明を発表しており、こうした耐性菌が感染を拡大させているのではないかとの声も出ているようだが、豪放送協会のニュース番組は11月6日の報道の中で、「耐性菌への懸念はあるが、現状では治癒率は低下しておらず、感染拡大に影響はしていない」との専門家の意見を伝えていた。