【偉人たちの健康診断】(NHKBSプレミアム)2017年11月15日放送
秘伝・忍者の健康術 眼精疲労解消、感情を呼吸で操る
歴史上の人物の「健康へのこだわり」を現代の医学目線で追求するバラエティー番組だが、ついにノーベル賞を先取りするスゴイ奴らが登場した。日本が世界に誇る超人集団「忍者」だ。
忍者の知恵と健康の秘密を暗闇でも見える「目の鍛練法」「呼吸法」、そして「記憶術」の3つから着目、あわせて現代にも使えるストレッチ術も紹介する。
織田軍を破った「夜目」が利く目の鍛練法
戦国時代、忍者のスゴさを日本中に知らしめたのは1578年、織田信長の二男、織田信雄の2万の大軍を壊滅させた「天正伊賀の乱」だった。伊賀・丸山城にこもる織田軍を忍者が夜討ちをかけた。真っ暗闇の中で織田軍の兵士は同士討ちを続けたが、「夜目」が利く忍者は確実に織田の兵士を仕留めていった。忍者はいったいどうやって暗闇でも見える視力をつけたのか。
18歳の時から50年間忍術修行を続けている「現代の忍者」、第21代甲賀流忍術宗家の川上仁一(68歳)さんがこう語る。
「夜目が利くように『明眼(めいがん)之法』という修行を続けてきました。これは、暗い部屋でロウソクの火をじっと見て、目を閉じる、じっと見て、目を閉じる、を繰り返します。次に、ロウソクの前に針の穴を開けた紙を立てて、その穴からロウソクの火を見つめます。さらに、ロウソクの火から少しずつ離れ、数メートルの距離からじっと見つめます」
番組では実際に真夜中の山中で、何の明かりもない真っ暗闇の中、川上さんに崖を上ってもらった。赤外線カメラで写すと、川上さんはサササッと頂上に登った。夜目が利いているのだ。この映像を見て眼科医の中島秀登さんがこう感心した。
中島医師「忍者の『明眼之法』という鍛錬は、非常に理にかなった目のトレーニングです。現代人に多い眼精疲労の改善にも役立ちます」
眼球には虹彩というカメラのシャッターのような穴がある。明るい所では虹彩が小さくなり、暗い所では大きくなり、水晶体に入る光の量を調節する。ロウソクの火を注視したり、目を閉じたりすると、虹彩の筋肉が動くため、鍛えると同時にほぐすことになる。また、ロウソクの火を離れた距離から見つめることは、水晶体のピントを動かす筋肉の毛様体を動かし、ほぐす効果がある。
中島医師「パソコンを見つめる仕事をしている人の98%は眼精疲労になっているというデータがあります。同じ距離から長時間パソコン画面を見つめるため、毛様体が肩こりのように固まっているからです」
親指を使った超簡単「眼精疲労解消」ストレッチ
中島医師は、眼精疲労を解消する、現代人が手軽に行える「明眼之法」のようなストレッチを教えてくれた。視力検査で使うような「C」の文字を書いた指サックを作り、親指に巻きつける。ピントが合うギリギリまで指サックを近づけ、「C」の文字の切れ目を見つめる。素早く腕を遠くまで伸ばし、ゆっくり近づける。その間、「C」の文字の切れ目を見つめ続ける。1秒間で遠ざけ、3秒間で近づけるとよい。往復3回で1セットを、1日に2回するとよい。
もう1つは、近くに突き出した親指の先と、遠くを交互に見つめることを繰り返す。いずれも目のピントを近くと遠くに合わせることを繰り返し、毛様体をストレッチするのだ。
さて、忍者の仕事といえば、何といっても敵地に潜入し、情報をとってくることだ。2017年7月から忍術を学問的に研究しようと「国際忍者研究センター」を開設した三重大学の高尾善希准教授がこう解説した。
「敵の城の床下などに潜み、聞き耳をたてて情報を取る時には大事なことが3つあります。『気配を消す』『平常心でいる』『集中して聞く』です。それには、忍者独特の呼吸法があるのです」
忍者の呼吸法とは何か。「現代の忍者」川上さんが語った。
川上さん「忍術の基本鍛錬は呼吸法です。息を長くと書いて、『息長』(おきなが)と呼びます。線香の煙をイメージして、ゆるゆるとゆっくり吸って、ゆるゆるとゆっくり吐き出します。1分間かけて吸って、1分間かけて吐き出します」
 川上さんが息長をすると、まるで眠っているようで、呼吸をしているようには見えない。三重大学で息長をしている川上さんの脳波を計測すると、不思議なことが起こった。リラックスする時に出るシータ波が高まると同時に、集中する時に出るアルファ2(ツー)波も高まったのだ。三重大学の小森照久教授がこう驚いた。
「リラックス」と「集中」が同時、あり得ない呼吸法
小森教授「通常ではあり得ない脳波の出方です。眠っていながら頭が冴え切っている、そんな状態の脳波といってよいでしょう」
つまり、川上さんは呼吸法によって、「気配を消す」「平常心でいる」「集中する」の3つを果たしてしまったわけだ。どうしてこんなことが可能なのか。 呼吸法と脳波に詳しい本間生夫・東京有明大学学長がこう説明した。
「感情をつかさどるのは脳の扁桃体という場所ですが、じつは扁桃体は呼吸のリズムを生み出す場所でもあります。私たちはストレスがたまると呼吸が早くなり、リラックスすると呼吸がゆっくりになります。この逆に、呼吸をゆっくりと深々と行なうと、リラックスして落ち着くことができるのです」
番組ゲストの元レスリング日本代表の浜口京子さんがうなずいた。
浜口さん「レスリングでも30秒間のインタバールの時、大きく深い呼吸を繰り返すと、落ち着いて力を出すことができます。いつもやっていますよ」
深呼吸などいつでもできると思っている人が多いが、実はできない人が非常に多いと本間学長が指摘した。深呼吸に必要な「呼吸筋」を鍛えていない人が大半だからだ。呼吸筋には吸う筋肉と吐く筋肉がある。本間学長が両方のストレッチ方法を紹介した。
【吸う筋肉のストレッチ】
(1)両手を組んで胸元に置く。
(2)息をゆっくり吐きながら、背中を丸め、組んだ腕をゆっくり前に突き出す。肩甲骨が広がるのを意識する
(3)今度は、ゆっくりと息を吸いながら腕を元に戻す。
(4)これを3~4回繰り返す。
【吐く筋肉のストレッチ】
(1)両手を組んで頭の後ろに置く。
(2)息をゆっくり吸いながら、背中を伸ばし、組んだ腕をゆっくり上に突き出す。かかとは床につけ、背中が伸びるのを意識する。
(3)今度は、ゆっくりと息を吐きながら腕を元に戻す。
(4)これを3~4回繰り返す。
本間学長「このストレッチは、何か不安がある時に行なうと、即時効果がありますよ。心が落ち着きます」
忍者は体の場所で、複雑な数字を覚える
情報を手に入れる際、忍者には「掟」がある。文書に記録してはいけない。敵に捕まった時に正体がわかるからだ。そこで忍者独特の記憶術がある。彼らの記憶がいかにすごいか、古文書に残っている。冒頭の織田軍を壊滅させた丸山城攻めで、潜入した忍者が城の状態を報告した内容が残っている。「城郭の高さ3間(けん)。二の丸に通じる道の曲がり角9か所、山上の敷地は南北69間、東西45間、馬9頭、見張りの数は......」。これをどうやって記憶するのか。
また、川上さんに解説してもらおう。
川上さん「修行で習ったのは、自分の体の場所で数字を覚える方法です。頭を1、額を2、目を3、鼻を4、耳を5、口を6と番号を振っていきます」
例えば、見張りが4人なら鼻を触る、馬が5頭なら耳を触る。さらに「物事を大げさに表現する」と覚えやすい。門番が3人なら「大きな目(注:目は3)の門番」、見張りが4人なら「鼻(注:鼻は4)汁を垂らした見張り」と覚えるのだ。
実は、この場所で記憶する方法は、現代医学でも裏付けられている。2014年にノーベル医学・生理学賞をとったジョン・オキーフ博士の研究がそれだ。オキーフ博士は脳の記憶をつかさどる海馬に「場所細胞」があることを突きとめた。迷路の実験で、マウスは曲がり角を「場所細胞」で記憶していることがわかり、人間にも場所細胞があることを発見した。だから、場所に関連付けて覚えると記憶が定着しやすい。
例えば、リビングで「コーヒーを飲みたい」と思い立ち、台所に行くと、何しに行ったか忘れることがある。しかし、リビングに戻ると思い出すのは、場所細胞が記憶しているからだ。何かを覚えたい時、忍者のように体の部分や家の中の特定の場所に関連付けて覚えるのがオススメだ。