三越伊勢丹ホールディングス(HD)が経営改革を進めている。ただ、百貨店業界の雄であることがかえって壁になっているのか、J・フロントリテイリングのような思い切った店舗改革などに踏み込めておらず、漸進策にとどまる。前社長が電撃退任した「お家騒動」の記憶も新しい中、前身の呉服屋から考えれば江戸時代から続く名門の行方に暗雲が漂う。
三越伊勢丹HDは2017年11月7日、9月中間連結決算とともに、20年度を最終年度とする中期経営計画を発表した。記者会見した杉江俊彦社長は「このまま未来に向かっていける体質ではない」と述べ、現在の経営体制が持続可能ではないとの認識と危機感を表明した。ただ、発表された内容は、そうした危機感の割には改革のスピードに緩さも目立った。
「大盤振る舞い」の早期退職制度
例えば今回、業績の目標として営業利益を2020年度までに350億円とするとしたが、従来は「早期に営業利益500億円を達成する」としており、大いなる後退と言わざるをえない。不採算店舗に大なたを振るう一方で、拡大路線を歩んだ大西洋前社長の退任を受けて17年4月に社長に就任した杉江氏としては、「大西路線との決別」こそ自らの存在意義と受け止めているかのようでもある。
スピードの緩さを示すことには事欠かない。2017年3月期まで5期連続の営業赤字をたれ流してきた高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」は、ようやく三菱商事系ファンドに18年3月に売却することになったが、売却するのは運営会社の株式の約3分の2。約3分の1は保有を続けるうえ、「再建後は株式を買い戻す選択肢もある」(17年10月に売却を発表した記者会見で三越伊勢丹HD幹部)という。他の大手百貨店グループ、例えばJ・フロントリテイリングが「ピーコックストア」を13年にイオンに売却したり、少し前に高島屋が「高島屋ストア」を関西のスーパー、イズミヤに売却してばっさり縁を切ったりしたのと比べ、取り扱いの「緩さ」が際立つ。
また、人員削減にしても、現在ある早期退職制度「ネクストキャリア制度」を拡充して対象年齢を50歳以上から48歳以上に引き下げたうえ、退職金額を大幅に積み増すというやり方だ。制度は3年間は続けるといい、場合によっては退職金が従来の2倍近くなる人もいるようだ。他の大手百貨店グループと比べてバブル期入社の管理職が多く、高止まりしている人件費を削減するためだが、期間を区切って目標人数を定めた希望退職者募集ではないうえに「大盤振る舞い」のような退職金積み増しとなると、良く言えばそれが繰り返し報道されることによるブランドイメージへの打撃は小さいものの、構造改革を進めるには「おっかなびっくり」の大甘な対応と言わざるをえない。別途、人件費抑制に向けて給与体系を見直すといい、それでは現場の士気を大いに低める結果になりそうだ。
足元の業績は一息ついているが...
店舗対策も甘い。前社長は閉店候補を記者会見で口走ったことで社内の不評を買い、それが退任につながったわけだが、現体制においては、地元千葉県松戸市の施設に入居してもらって営業を続ける案が市側に否定された伊勢丹松戸店の閉店(2018年3月)以外は、不採算店舗は手つかずのままだ。
一方、「インターネット通販を成長の軸にする」との成長戦略を打ち出したが、今一つ心もとない。2018年4月をメドに店とネットを融合したサイトを新たに立ち上げ、4000社に上る衣料品や食品のメーカーなどの取引先に参加を促す。百貨店の店頭では扱わない低価格の商品や自社サイトを持たない企業の商品をネット上にそろえて販売し、三越伊勢丹HDは手数料を得るという、楽天のような「場所貸し」のビジネスモデルが視野にあるようだ。とは言うものの、三越や伊勢丹のなじみの客はその華やかな店舗で買い物をするという行為そのもの、あるいは従業員のホスピタリティーにこそお金を払っているのではあるまいか。安い品物なら他にいくらでもある。具体的な戦略はもう少し精査するとも言っているが、「高い授業料だった」とならぬような仕組みが問われそうだ。
三越伊勢丹HDは、訪日外国人による売り上げが再び上昇気流にあるため、2017年9月中間連結決算の営業利益が前年同期比25.4%増の76億円となるなど、足元の業績は一息ついている。ただ、こうした中でライバルのJ・フロントリテイリングは、銀座の松坂屋が再開発によって従来の百貨店とは言えない商業施設に生まれ変わって集客力を高めるなど、抜本的な改革を進めている。「一息ついている」あいだに改革のスピードを緩めたことが後々の禍とならないか、業界内からも心配する声が聞かれる。