足元の業績は一息ついているが...
店舗対策も甘い。前社長は閉店候補を記者会見で口走ったことで社内の不評を買い、それが退任につながったわけだが、現体制においては、地元千葉県松戸市の施設に入居してもらって営業を続ける案が市側に否定された伊勢丹松戸店の閉店(2018年3月)以外は、不採算店舗は手つかずのままだ。
一方、「インターネット通販を成長の軸にする」との成長戦略を打ち出したが、今一つ心もとない。2018年4月をメドに店とネットを融合したサイトを新たに立ち上げ、4000社に上る衣料品や食品のメーカーなどの取引先に参加を促す。百貨店の店頭では扱わない低価格の商品や自社サイトを持たない企業の商品をネット上にそろえて販売し、三越伊勢丹HDは手数料を得るという、楽天のような「場所貸し」のビジネスモデルが視野にあるようだ。とは言うものの、三越や伊勢丹のなじみの客はその華やかな店舗で買い物をするという行為そのもの、あるいは従業員のホスピタリティーにこそお金を払っているのではあるまいか。安い品物なら他にいくらでもある。具体的な戦略はもう少し精査するとも言っているが、「高い授業料だった」とならぬような仕組みが問われそうだ。
三越伊勢丹HDは、訪日外国人による売り上げが再び上昇気流にあるため、2017年9月中間連結決算の営業利益が前年同期比25.4%増の76億円となるなど、足元の業績は一息ついている。ただ、こうした中でライバルのJ・フロントリテイリングは、銀座の松坂屋が再開発によって従来の百貨店とは言えない商業施設に生まれ変わって集客力を高めるなど、抜本的な改革を進めている。「一息ついている」あいだに改革のスピードを緩めたことが後々の禍とならないか、業界内からも心配する声が聞かれる。