「酒は百薬の長」という言葉があり、「適度の酒ならストレスを解消し体にもよい」といわれてきた。国立がん研究センターが「ほどほどの酒を飲む人は死亡リスクが低い」という研究を医学誌「Journal of Epidemiology」(電子版)の2017年11月11日号に発表した。
改めて左党の喜びが確認された形だが、「適度の酒」の量は意外と少ないし、休肝日を作らないと死亡率はぐんと上がるから要注意だ。
国立がん研の10万人の大規模調査で判明
国立がん研究センターの発表資料によると、研究チームは1990~1993年に岩手県から沖縄県まで全国10地域に住んでいた40~69歳の男女約10万人を2011年まで追跡、飲酒の習慣と全死亡リスク(個々の病気・事故死・自殺を含む)との関係を調べた。調査開始時点と5年後、10年後の3回アンケート調査を行ない、対象者の男性を飲酒量で次の7つのグループに分けた(注:女性は男性の6段階までの6グループに)。
(1)全く飲まない。
(2)たしなむ程度(週に1~3回以下)。
(3)少し飲む。週にエタノール換算で150グラム未満。エタノール150グラムはビール中ビンなら7~8本、日本酒なら7~8合。
(4)飲む。週にエタノール換算で151~300グラム未満。同ビール中ビンなら15本、日本酒なら15合。
(5)かなり飲む。週にエタノール換算で301~450グラム未満。同ビール中ビンなら22~23本、日本酒なら22~23合。
(6)飲みすぎる。週にエタノール換算で451~600グラム未満。同ビール中ビンなら30本、日本酒なら30合。
(7)暴飲。週にエタノール換算で600グラム以上。
その結果、男女とも飲酒量が一番多い人の死亡率が最も高く、2番目は全く飲まない人だった。一番死亡率が低いのは、女性では(2)の週に1~3回の「たしなむ程度」の人で、男性では、(2)から(4)の「ほどほどに飲む」グループが横並びで長生きだった。ともに「全く飲まない人」に比べ、死亡リスクは約25%低くなった。男性の場合、具体的には「週にビール中ビンなら15本、日本酒なら15合以下」の飲酒量だ。
1日にビール中ビン2本以下がベスト
飲酒量の死亡率の影響は男性より女性の方が高く、「全く飲まない人」に比べ最も多量に飲む人に死亡リスクは、男性が20%増なのに対し、女性は60%増に跳ね上がった。一方、病気別に比較すると、男女とも「心臓病」と「呼吸器病」が、「ほどほどに飲む」グループが一番死亡リスクが低かったが、「がん」と「脳血管病」では、「全く飲まない人」の死亡率が一番低く、飲む量が上昇するにつれ、死亡リスクが高くなった。女性では、「呼吸器病」だけが「ほどほどに飲む人」の死亡リスクが最も低かったが、それ以外の病気では、「全く飲まない人」の死亡率が一番低く、飲む量が上昇するにつれ、死亡リスクが高くなった。
それにしてもなぜ、「ほどほどに飲む人」が長生きするのだろうか。研究チームは、発表資料の中でこう分析している。
「少量の飲酒は、HDL(善玉コレステロール)を増加させ、血液中に血栓ができにくくする効果があります。また、少量から中量の飲酒には抗炎症作用があり、これが呼吸器病の死亡リスクを下げると思われます。さらに、少量から中量の飲酒には、免疫機能やインスリンの働きを改善することが知られており、がんの死亡リスクを下げているのかもしれません。ただし、多量の飲酒は死亡リスクを上昇させることが改めて確認されました。適度に飲むことが大切です」
今回の研究では、「休肝日」(全く飲まない日)を週1~2日取るグループと、取らないグループの比較も行なった。すると、休肝日を取らない人は休肝日を取る人に比べ、飲酒量の多い少ないに関係なく、すべての病気で死亡リスクが高くなった。特に、がんと脳血管病の死亡リスクが上昇した。毎日少量なら休肝日がなくてもよさそうな気がするが、なぜ危険なのか。研究チームはこう解説している。
家晩酌の「孤独派」より飲み会の「社会派」が健康
「アルコールを肝臓が分解する時に、発がん性の有害物質アセトアルデヒドが産生します。毎日酒を飲んで休肝日を取らない人は、このアセトアルデヒドを浴びる期間が長くなり、がんなどの発症リスクが高まることが考えられます。また、休肝日を取らない人は家で飲むケースが多いですが、休肝日を取る人は社会的交流の場(飲み会)で飲む傾向が強いことが報告されています。つまり、友人など社会的な支えが多い人といえるでしょう。社会的な支えが多い人は、適度の酒なら心臓病や脳血管病になりにくいことが過去の研究でわかっています」
「家飲み」で毎日チビチビ晩酌をする「孤独派」より、パアーッと飲み会で楽しんで発散して、しっかり休肝日を取ることが、健康な呑兵衛の心構えということか。