ウォーキングなどの有酸素運動を習慣的に行っていると、動脈硬化になるリスクが3分の1以下に抑えられることが、産業技術総合研究所の研究で明らかにされた。研究成果は米科学誌「Journal of Applied Physiology」(電子版)の2017年11月2日号に発表された。
ウォーキングの健康効果に関する研究は数多くあるが、これは被験者の血管の変化を10年間追跡して分析した結果であり、研究者は「世界で初めてウォーキングが動脈硬化を抑えることを実証した」としている。
「速足歩きを1回30~60分、週に4~5日行う」
産業技術総合研究所の発表資料によると、動脈硬化には、(1)細い血管に血栓などが詰まり、狭心症や脳梗塞を引き起こすタイプ(アテローム硬化症)と、(2)動脈壁が弾力性を失って硬くなるタイプ(中膜硬化症)がある。 このタイプは、動脈の壁が突然破裂して大出血する「胸部大動脈瘤」など致死性の高い危険な病気が多い。さらに、このタイプのリスクを測る指標に「動脈スティフネス」がある。スティフネスは「硬度」という意味だ。動脈スティフネスは動脈の壁の弾力性を表し、数値が高くなるほど血管壁が硬くなる。
動脈スティフネスが高いと、将来、重い心臓病を発症するリスクが高くなる。動脈スティフネスは、加齢に伴って上昇するが、習慣的に有酸素運動を行うと改善することがわかっている。しかし、実際に血管壁まで確かめた研究はなかった。
研究チームは、2003~2005年に動脈スティフネスを遺伝子・分子レベルのち密さで計測した男女92人(調査開始時の平均年齢52歳)を対象に、10年後の2013~2015年に再測定し、血管壁の硬度の進み具合を比較した。そして、その10年間に行なった身体活動や運動習慣を質問し、運動量を「多い」「中くらい」「ほとんどしない」の3つのグループに分け、動脈スティフネスの上昇スピードを比べた。
その結果、運動量が一番多いグループの動脈スティフネスは、ほかの2つのグループの3分の1以下で、若々しい弾力性を維持していることがわかった。その分、動脈硬化のリスクが減ることが実証できた。このグループの運動量は、ウォーキングに換算すると「速足歩きを1回30~60分、週に4~5日行う程度」に匹敵した。これは、世界保健機関(WHO)や米国スポーツ医学会・米国心臓病学会が、心臓病予防に推奨する身体活動量にほぼ相当し、これまで推奨されていた有酸素運動の有効性が、動脈スティフネスの10年間の追跡調査で初めて確認されたわけだ。
遺伝的に動脈硬化リスクが高い人でも続けると効果が
今回の結果について、研究チームの野田尚宏研究グループ長らは発表資料の中でこう語っている。
「ウォーキングの効果は、短期間の急性的なものではなく、毎日の積み重ねによる継続的なものであることが判明しました。少なくとも4週間ウォーキングを続けると、血管の弾力性の改善が期待できます。また、私たちは動脈スティフネスを遺伝子レベルで調べましたが、そのことによって、遺伝的に動脈硬化のリスクが高い人でも、運動習慣があれば動脈硬化を抑制できることもわかりました。毎日続けることがとても大切です」