インターネット通販が勢いを増し、既存の大手小売業が軒並み苦境に陥っている。米国ではネット通販大手アマゾン・ドット・コムが顧客を奪った影響で、玩具大手トイザラスが事実上、経営破綻した。日本でも衣料品を中心にネット通販が既存市場を侵食しており、小売業も対抗策を打ち出そうとしている。
百貨店業界大手の三越伊勢丹ホールディングスは2017年に入り、早期退職者に支払う退職金を増額したり、高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」を運営する子会社の株式を売却すると発表したりと構造改革を急いでいる。「本業である百貨店の苦戦がリストラの大きな要因だ」と小売り関係者は語る。
訪日外国人客の需要で一見、潤っていたように見えたが...
ここ数年は訪日外国人客の需要で一見、潤っていたように見えた百貨店業界だが、台所事情は年々厳しくなっている。2016年の全国百貨店の売上高は、ピークだった1991年の6割に縮小し、6兆円を割り込んだ。「少子高齢化も大きいが、苦戦の最大の背景はネット通販の猛威だ」と流通アナリストは指摘する。百貨店の主力は衣料品だが、すでに衣料品販売の1割がネット通販に奪われている。百貨店もネット事業を手掛けてはいるが、品揃えや利用者の使い勝手などでアマゾンの勢いには勝てないのが実態だ。
経済産業省の調査によれば、2016年の物販系のネット通販の金額は前年比10.6%増の8兆43億円。既に買い物全体の5.4%を占めているが、流通関係者によれば、その比率は将来、「少なくとも20%まで伸びる」との見方が大勢。「25~30%までは拡大する」と予測する向きもある。既存の小売業は現在、書籍や衣料品分野から徐々に食われている状況だが、このまま手をこまねいていれば、さらに顧客を奪われる可能性は強い。
こうした動きに対し、小売業も次々と対策を打ち出している。カジュアル衣料品店ユニクロやGUを展開するファーストリテイリングをはじめ、ネット通販を強化する動きは加速。これまでネット通販は手掛けない方針だった衣料販売のしまむらも2018年中には、ネット販売に進出する方針とされる。
新業態も登場
一方、ネットを強化するだけでなく、新業態を広げる動きも進んでいる。家電量販最大手のヤマダ電機は、家具やインテリア雑貨、リフォームまで扱う新業態の店舗「家電住まいる館YAMADA」の展開に乗り出した。
百貨店業界では、百貨店事業から手を引き、駅に近い優良物件である店舗をテナントに貸し出す不動産業態に転換する動きも目立ってきた。J・フロントリテイリングが今春、東京・銀座にオープンした複合施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」が代表例だ。名古屋の老舗百貨店、丸栄もテナント業に転じる方向だ。
ネット通販の猛威に既存の小売業は対抗できるのか。「5~10年もすれば答えが見える」(小売り関係者)とされるが、買い物環境の変化、進化が歩みを止めることはなさそうだ。