これまで食物アレルギーは子どものころに発症しやすいとされてきたが、その常識が大きく変わるかもしれない。
2017年10月26~30日に米ボストンで開催された米国アレルギー・喘息・免疫学会議(ACAAL)の年次学術集会において、ノースウエスタン大学ファインバーグ医科大学院のルチ・グプタ博士らの研究チームが「食物アレルギーを持っている大人の半数近くが成人になって発症している」とする調査結果を発表したのだ。
5万3000人以上のデータ分析、45%は子どもの頃「陰性」
アレルギーといっても食物アレルギーやアトピー性皮膚炎、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎など、その種類や症状はさまざまだ。
厚生労働省が発表している「食物アレルギーについて」によると、同省の調査ではアレルギー症状は小児から成人まで幅広く発症が認められているが、傾向として食物アレルギーは1歳未満の小児が発症する例が最も多いという。この認識は日本に限った話ではなく、海外で行われている食物アレルギー研究も基本的に子どもに焦点を当てている。大気汚染や、母乳あるいは粉ミルクで育てた場合の比較、動物との接触機会などの影響を指摘するものが多い。
2017年には食物アレルギー発症を予防するため、生後6か月のころからピーナッツや卵などアレルゲンとなりやすい食品を摂取すべきとの研究結果が欧米で相次いで発表され、米国立衛生研究所(NIH)は早期のピーナッツ摂取を推奨するガイドラインを発表した。 日本でもアトピー性皮膚炎を発症している乳児はアレルギー専門医の監督下で早期に卵を摂取するよう、小児アレルギー学会が小児科医向けに「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」を発表している。
しかし、グプタ博士らが米国在住の食物アレルギー患者5万3575人のデータを分析したところ、45%は子どものころに受けたアレルギー検査で陰性となっており、成人してから食物アレルギーを発症していることがわかったのだ。
グプタ博士はACAALのプレスリリースの中で、
「食品アレルギーは小児期に始まることが多いと我々は考えてきたが、実態は半数近くが成人期に発症していた。驚くべきことで、今後の食物アレルギーへのアプローチは大きく変わるだろう」
とコメントしている。
人種差や食生活、生活環境、その他の生活習慣についても、こうした要因を調整して分析。しかし白人、黒人、アジア系、ヒスパニックそれぞれの成人の食物アレルギー発症率は上昇しており、その総数は13年前から44%も増加しているという。
成人の食物アレルギーのタイプで最も多いものは貝類、次いでナッツ類となっており、特異な食品というわけではない。比較的大人の発症例が多いとされる甲殻類はそれほど多くなかった。
成人でも食品で違和感を覚えたらアレルギー検査を
一方、食品ごとの食物アレルギーリスクは人種ごとで異なっていた。例えばアジア系の成人は白人よりも貝アレルギーを発症するリスクが2.1倍高く、ヒスパニック系は白人の2.3倍ピーナッツアレルギーを発症している。
とはいえ、これらはあくまで傾向なので誰もが貝やナッツ類だけで食物アレルギーを発症するリスクが高いわけではなく、まったく別の食品が引き金となる可能性も十分にある。
厚労省の「食物アレルギーについて」では1歳前後で主要なアレルゲンとなるのは卵・牛乳・小麦・大豆とされ、成人期では魚類・エビ・カニ・果物とされていた。
グプタ博士は
「食物アレルギーは子供が発症するもので、大人ではまず起きないという思い込みがあり、食後に奇妙な体調変化があってもわざわざアレルギー検査を受ける人はいないかもしれない」
と警告。致命的な問題となる前に検査を受け、食物アレルギーであることが確認された場合は、専門医の指導に従って治療と食事管理に取り組むよう訴えている。