小児期に発症するはずの「注意欠陥多動性障害(ADHD)」が成人になるまで気づかれず大人になって発覚する、いわゆる「大人のADHD」と診断された人の大半が、実際にはADHD以外の精神障害である可能性が高い――。
そんな研究結果が、米国立医衛生研究所(NIH)が主導し、米、カナダ、ブラジル、ポルトガル、ドイツの大学が参加するADHDの国際共同研究グループによって2017年10月20日、米国生理学会誌電子版に発表された。
研究では80%が「ADHDではない」
「大人のADHD」という言葉が一般的になりつつあるが、ADHDは大人になって発症する病気ではない。日本ADHD学会が発行している「ADHDの診断・治療ガイドライン」では、子どもの病気で必ず小児期に始まるとされている。
大人のADHDも前述のとおり、小児期にADHDと診断されず青年・成人期までADHDであることを見落とされていた場合を指す。
今回発表された研究に取り組んだ国際共同研究グループも、ADHDと診断された子どもの3分の2は成人してもADHDのままで、集中力・協調性が低い、忘れやすい、衝動的な行動を取るといった症状を示すとしており、大人になってADHDと診断される可能性は少なくない。
しかし、ADHDに関連する症状は、気分障害や不安症などの精神障害、薬物やアルコール依存の症状と似ていることが多く、過剰診断や誤診も少なくないのではないかという指摘は以前からあった。
そこで、国際共同研究グループはNIHが1999年から実施している大規模なADHD追跡研究「The Multimodal Treatment of Attention Deficit Hyperactivity Disorder Study(MTA)」から、小児期にADHDと診断されていない239人のデータを抽出。10~25歳の間に2年おきに実施された調査結果を検証している。
その結果、80%の被験者が成人以降に気が散りやすい、集中できない、忘れやすいといった症状を示しており、中には「ADHD症状が出現している」と報告された被験者もいた。
しかし、239人は小児期にADHDでないことが確認されており、大人になってADHDを発症したとは考えにくい。
そこで研究グループが慎重に被験者らの過去の医療記録や自己報告に基づく報告書を分析したところ、ADHD症状のような症状を示した被験者らには薬物乱用や(心的外傷後ストレス障害発症につながるような)強い精神的衝撃の経験、抑うつ症状などが確認されていることがわかった。つまり、ADHDに症状に似た症状を示す他の要因を持っていたのだ。
研究グループは、
「一部の遅発型ADHD症例(大人のADHD)は、慎重な評価なしに診断されている可能性があり、臨床医は治療の前に患者の精神障害や精神疾患の病歴、薬物使用などを注意深く評価する必要がある」
と結論付けている。
客観的な判断が非常に難しい病気
今回の研究結果は大人のADHDが存在することを否定しているわけではなく、ADHDの客観的な判断は非常に困難であること、大人になってからADHDを発症する可能性は限りなく低いことを示すものだ。
「自分は落ち着きがないからADHDかもしれない」「あの人は協調性がないからADHDではないか」といった判断は意味がない。
世界保健機構(WHO)は大人のADHDの簡易診断シートを「Adult ADHD Self-Report Scale (ASRS-v1.1) Symptom Checklist」として公式サイト上で公開しているが、これもあくまで傾向を示すもので、確定診断を医療機関で受けるように明記されている。