がんリスクを上昇させる要因は部位によっても異なる。では、口腔・咽喉がんのリスクを高めるものといえば何を思い浮かべるだろうか。
口やのどといえばやはり喫煙や飲酒......と思いきや、米ジョンズ・ホプキンス大学のジプシャンバー・ドゥスーザ博士らが2017年10月19日に発表した研究結果では、「オーラルセックスをするパートナーの数」という意外(?)な要因が指摘された。
HPVウイルスの感染リスクを高めているのは
数あるがんの発症要因の中でも、「ヒトパピローマウイルス(HPV)」はがんを引き起こすウイルスとして知られている。
HPV自体はどこにもでも存在するありふれたウイルスで、仮に体内に侵入しても自然に排出されるが、「高リスク型HPV」と呼ばれる型のウイルスが子宮に残ると「子宮頸がん」を、口内に残れば口腔がんや咽喉がんリスクを高めるのだ。
こうしたことから、HPV検査によって口腔・咽喉がん検査が可能になるのではないかと考えたドゥスーザ博士は、がん患者や健常者の口腔内HPV感染状況を把握するため、調査を行った。
その内容は、2009~2015年に実施された米国民健康栄養調査から20?59歳の9425人を無作為に選出し、口内の組織サンプルを回収。サンプルを分析して発がんリスクのある有害なHPVのDNAの有無を確認するというもの。サンプル回収前には歯磨きとうがい薬による口腔洗浄を行った。
被験者の年齢や性別、人種、性行動、喫煙習慣などの諸条件のうち、どれがHPV感染リスクを高めているのかも解析。また、全米保健医療統計センターのがん疫学統計をもとに、検出されたHPVに起因するがんリスクなども検証したという。
その結果、いくつかの要因で感染リスクが高まることも確認された。まず、性別だ。女性のHPV口腔感染リスクは1.1%だったのに対し、男性は6.0%。喫煙者も感染リスクは高く非喫煙者の2.6%に対し6.7%だった。
そして特に大きなリスク差を示したのは、オーラルセックスのパートナー数だ。パートナーが10人以上いる人は11.1%、5~9人で3.3%、2~4人で2.5%となっており、パートナーが1人増えるごとにリスクは約1.2%ずつ上昇している計算になる。
ここで挙げられたリスク要因をすべて兼ね備える人、つまり大勢のオーラルセックスパートナーがいる喫煙習慣のある男性は口腔内がHPVに感染するリスクが高く、結果的に口腔・咽喉がんリスクが高まっているとも考えられなくはない。
HPVで口腔がんを発症する例はまれ
ただし、今回の研究には制限も多い。
まず、口腔内がHPVに感染していても、そこから口腔・咽喉がんを発症する人はまれで、女性では1000人に2人、男性も1000人に7人程度のレベルだという点だ。かなりの低リスクであり、裏を返すとHPV感染ががん発症リスクの目安にはなりづらいともいえる。
また、研究は調査時点で口腔内にHPVが存在するかを確認しただけで、いつどのような方法で感染したのかはわかっていない。オーラルセックスのパートナー数にしても因果関係までが証明されているわけではなく、あくまでも相関を示唆するにとどまる。
オーラルセックスのパートナー数が多いからといって本当に口腔・咽喉がんリスクが高まるのかはわからない。
ちなみに、研究が提案するオーラルセックス時のセーフティーセックス法は、
「性器や肛門にコンドームやラバーダム(歯科治療などで用いるゴムの膜)を使用する」
となっていた。がんリスクが低下するかは定かではないが、性感染症の予防にはなるだろう。