体にいい油(脂質)として、「オメガ3脂肪酸」の名前はよく聞く。馴染がなくても、魚に含まれる「エイコサペンタエン酸(EPA)」や「ドコサヘキサエン酸(DHA)」と言われれば、ピンと来る人もいるだろう。
そんなオメガ3脂肪酸が、アレルギーを悪化させているという意外な研究結果が2017年10月10日、東京大学大学院薬学系研究科の新井洋由教授・河野望講師のグループと同大学院医学系研究科の村上誠教授のグループによって発表された。
まさかの不飽和脂肪酸が悪役
オメガ3脂肪酸は抗炎症作用、抗動脈硬化作用を持つと言われ、一般的には健康にいいイメージのある成分だ。
その健康効果を調査した研究も少なくない。国立がんセンターが行った研究でも肝臓がん発症リスクや自殺リスクの抑制などが報告され、国外でもうつ病やアルツハイマー病との関連を指摘したものもある。
そんなオメガ3脂肪酸がアレルギーとどう関係しているのだろうか。
アレルギー患者の特徴のひとつに、「マスト細胞」という免疫細胞が活性していることが挙げられる。鼻粘膜や皮膚など外部に接触する部位に存在する細胞で、表面にアレルゲン(抗原、アレルギーの原因物質)が接触すると活性化。細胞内に蓄えているヒスタミンなどを放出し痒みや気道収縮、血管拡張による体温低下など「アナフィラキシー反応」を引き起こす。
マスト細胞は活性化すると、オメガ3と同じ不飽和脂肪酸である「オメガ6脂肪酸」が酸化した成分を放出することがわかっている。研究チームは酸化したオメガ3脂肪酸も放出されている可能性があるのではないかと仮定。詳しく調査するためマウスから抽出・培養したマスト細胞が放出する酸化脂肪酸を分析したという。
すると、従来知られていた酸化オメガ6脂肪酸よりも、EPAやDHAが酸化した「エポキシ化オメガ3脂肪酸」が豊富に放出されていることがわかった。
マスト細胞を調べてみると、「PAF-AH2」という脂質を分解する酵素を持たない細胞ではエポキシ化オメガ3脂肪酸の放出量が減少しており、マスト細胞が活性化してもアナフィラキシー反応は弱いままだった。
つまり、PAF-AH2が酸化したオメガ3脂肪酸を作り出し、アレルギーに伴うさまざまな反応を悪化させていたのだ。