かつては体に悪い食品かのように言われてきたチョコレートだが、ここ数年はカカオやダークチョコレートが含む「カカオフラバノール」の健康効果を指摘する研究も数多く発表され、健康的な食品のようなイメージもできつつある。
しかし、そうした研究結果はチョコレートメーカーが研究資金を提供することで、結果にかなりの偏りがあるのではないかと指摘する声が米ニュースメディアなどで挙がっている。
企業の資金提供でバイアスがかかる
現状のチョコレート研究に疑問を投げかけているのは米国の独立系ニュースメディア「VOX Media」だ。同メディアは2017年10月18日付の記事の中で、
「大手チョコレートメーカーの栄養成分研究への参入は、科学的議題を公衆衛生ではなく、いかに自分たちの利益をもたらすように導いているかを示す素晴らしいケーススタディとなっている」
と皮肉たっぷりに紹介している。VOX Mediaの指摘の元となったのは、2017年4月に豪州の研究者らによって発表されたカカオが血圧に与える効果を検証したレビュー論文だ。
チョコレートやカカオを2週間以上摂取した場合の血圧の変化を示した論文35件、1804人分のデータを分析したもので、著者らは論文の質には問題はなくフラバノールには血圧や心臓血管の健康に有益な効果がある可能性があるとしつつ、効果を厳密に示すためには長期的な試験が必要であるとしている。
結論に特筆すべき点はないが、気になる指摘がある。チョコレートメーカーが資金提供をした研究では、提供されていない研究よりも明らかに効果が大きく報告される傾向にあったというのだ。
そこで、VOX Mediaが過去20年間にチョコレートメーカーから資金提供を受けたカカオフラバノールに関する研究論文100本をランダムに調査。その結果がポジティブ(カカオの健康効果を示した)か、ネガティブ(健康効果を示さなかった)かを比較したところ、98本がポジティブとなり、ネガティブは2本だけだったという。
その効果の内容は「定期的にカカオフラバノールを摂取すると気分や認知能力が向上」「ダークチョコレートが血流を改善」「カカオは免疫障害の治療に有用」「ココアパウダーとダークチョコレートの両方が心血管疾患のリスク低減」などで、欧米の著名な大学からも発表されている。
ある研究機関に勤務する研究員はJ-CASTヘルスケアの取材に、「資金提供でバイアスがかかる可能性はゼロではない」と答えた。
「資金提供をした企業は自社製品に好意的な見解を示した研究を選ぶでしょうし、研究者が無意識のうちに研究のデザインや結果の解釈を微調整してより肯定的な結論を導く可能性も否定はできません。私も論文を読むときはCOI(利益相反)を踏まえて、ある程度バイアスを考慮します」
研究報道の在り方に疑問も
VOX Mediaは資金提供の問題だけでなく、こうした情報を伝えるメディアや広報担当者にも問題がないわけではないと指摘している。
例えば、2016年7月に米コロンビア大学のアダム・ブリックマン博士は、チョコレートメーカーから資金提供を受け、カカオフラバノールが年齢とともに劣化する記憶力の回復に寄与する可能性があるとする研究を発表。
研究ではカカオフラバノールを含むサプリメントを使用していたのだが、大学のプレスリリースでは「チョコレートに記憶力回復効果」とされ、これを引用したメディアではチョコレートにアルツハイマー病抑制効果があるかのように報じられていたという。
ブリックマン博士はのちに「チョコレートの定期的な摂取でアルツハイマー病は予防できないし、そのような研究は行っていない」と否定するコメントを出している。
ちなみに、質の高い医学論文・情報を検証する「コクラン共同計画」が発表している「コクラン・レビュー」では
「フラバノールが豊富なチョコレートとカカオ製品は、主に健康な成人を中心に2mmHg(水銀柱ミリメートル)の血圧降下効果を短期間引き起こす。心臓血管疾患のリスク低下と直接関連する証拠は示されていない」
とされ、他に健康効果は言及されていない。