神奈川県座間市で遺体となって発見されたとみられる23歳の女性は、容疑者の男と「自殺サイト」を通じて知り合ったとされる。どんな情報が掲載されるサイトなのか。
ITジャーナリストの井上トシユキ氏に話を聞くと、「もともとは自殺の話題を専門に扱う掲示板サイトとして出てきた」という。相手の顔も名前も知らないネット空間。「赤の他人のほうが話しやすいこともあります」と、相談者が集まる理由を分析している。
過去にも殺害事件に発展
東京都八王子市の女性(23)が行方不明になり、座間市のアパートの1室で2017年10月30日から31日にかけ、女性とみられる遺体を含む9人の頭部や骨がクーラーボックスから発見された。警視庁はこの部屋に住む白石隆浩容疑者を死体遺棄容疑で31日に逮捕。各メディアの報道などによると白石容疑者は、自身が殺害と証拠隠滅をしたと認める供述をしている。
女性はツイッターで自殺をほのめかす投稿をしていたほか、白石容疑者とは「自殺サイト」を通じて知り合ったとされる。
自殺願望を持つ人などが集まる「自殺サイト」。ただ、「願望につけ込み、殺害目的で書き込みや接触を図るケースもあります」とITジャーナリストの井上トシユキ氏は話す。31日に取材にこたえた同氏によれば、自殺サイトは次のような変遷をたどってきた。
ルーツは自殺の話題を専門に扱う掲示板サイト。インターネットの普及とともに1997~98年ごろから見られるようになり、乱立しはじめる。死にたいという思いや、一緒に死んでくれる人を募集するような書き込みと、それに対して別のユーザーが引きとめたり、諫めたりする書き込みもあるという。
自殺サイトを運営していた人物と話したことがあるという井上氏は、「その人の場合、ネットで広告収入を稼げれば、サイトのテーマは自殺でも何でもよかったと言っていました。ただ、管理人には自殺を救いたいという考えの人もいるかもしれません」と話す。
そうした中、大阪府河内長野市で2005年、自殺サイトで志願者を言葉巧みにだまして呼びつけ、殺害する残虐な事件が起きた。このような事件を通じ、「自殺サイトの認知度があがるとともに、はじめから殺人目的でつけ込む人間もサイトを訪れるようになりました」という。
「信頼できる自治体やNPOの窓口に相談することが大切」
徐々に新たな流れも生まれた。井上氏によれば、自殺サイトが社会問題化し、批判を浴びると、やり取りの場をSNSに移すケースも出はじめたという。「掲示板形式の自殺サイトだと基本的に誰でも見られますが、SNSではひとたび出会えば、1対1やグループ内のメッセージサービスを通じて、クローズドなやり取りが可能です。そうして外から発見するのが困難になっていきます」。ツイッターでも「#自殺願望」「#自殺募集」といったハッシュタグ付きの投稿は少なくない。
公的な指導については「書き込みだけを見て規制するのは難しいと思います。ネットでカウンセリングをしているなどと言われれば、立ち入るのは容易でないでしょう」と指摘した。
一方、SNSでは独自の取り組みがみられる。上で例示したツイッター社は、ヘルプセンターで「Twitter上で自傷行為や自殺の危険を発見したときは、このような危険に対応する専門チームまでご報告ください」として第三者が連絡できるフォームを整備。同社は報告を受けると、信ぴょう性を確認し、対象アカウントに連絡を取る。そこで「心身の安全を危惧して心配している人がいることを伝え、オンラインまたは電話による救済策を案内して助けを求めるように促し、励まします」などといった対応を取ると示している。
親や友達には打ち明けられない状況では、「赤の他人のほうが話しやすいという心理で、ネット上に相談の場を求めるのは不思議なことではありません」と井上氏は話す。その上で、「自殺サイト、SNSの自殺相談グループなどのネット情報だけで完結せず、信頼できる自治体やNPOの窓口に相談することが大切です」とも話している。東京都でも、自殺相談ダイヤルを設置しているほか、都公式サイトには各種NPOや社会福祉法人の相談窓口を掲載している。