慰安婦問題を取り上げた著書「帝国の慰安婦‐植民地支配と記憶の闘い」で元慰安婦の名誉を傷つけたとして、在宅起訴されていた朴裕河(パク・ユハ)世宗(セジョン)大教授に対する控訴審判決が2017年10月27日にソウル高裁であり、1審の無罪判決を破棄して罰金1000万ウォン(約100万円)の支払いを命じる有罪判決を言い渡した。
1審では、書籍で問題視された記述は「意見の表明に過ぎない」としたが、韓国メディアによると、今回の控訴審では、書籍には虚偽の事実が11か所にわたって含まれており、それが元慰安婦の女性の名誉を傷つけたと判断した。記述が虚偽だと裁判所が判断した根拠のひとつが、1993年のいわゆる「河野談話」だ。談話は慰安婦の動員に旧日本軍の関与と強制性を認める内容だ。つまり、書籍の内容は河野談話などの内容に反するので「虚偽」だと認定されたとも言え、思わぬ形で河野談話が判決に影を落としたともいえる。
「クマラスワミ報告」は「現時点で慰安婦に関する最も正確なもの」?
韓国メディアによると、検察側は書籍の記述のうち35か所が元慰安婦の女性の名誉を傷つけたと主張。判決では、そのうち24か所が朴氏の意見を表明した部分だと認定した。残り11か所が事実を記述したものの、その内容が虚偽だったとした。虚偽だとされたのは、
「朝鮮人の日本軍慰安婦たちは、仕事の内容が兵士を相手にする売春であることを認知した状態で生活のために本人の選択に応じて、慰安婦になって、経済的対価を受けて売春をする売春業に従事した人である」
「慰安婦を誘拐して強制連行したのは、少なくとも朝鮮半島では、そして公的には日本軍が行ったことはなかった」
といった記述だ。
京郷新聞によると、判決で記述が「虚偽」とされた根拠は、1994年の国際法律家委員会(ICJ)による報告書や、1996年に国連人権委員会が採択した「クマラスワミ報告」。クマラスワミ報告は、済州島で慰安婦が多数強制連行されたと虚偽の証言をした故・吉田清治氏の証言を引用したほか、「性奴隷」だった慰安婦が「20万人」いたと記述。日本国内では信ぴょう性を疑問視する声も多いが、高裁は
「これらの報告書に含まれている事実は、客観的な国際機関の専門家を介して膨大な資料と証言を収集・検討した末に認められたもので、現時点で慰安婦に関する最も正確なもの」
で、
「『帝国の慰安婦』で記述された部分が客観的事実と異なることは明らかである」
と認定した。
河野談話根拠に「クマラスワミ報告の内容、日本自らも求めた」
とりわけ、河野談話の
「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」
「当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた」
といった記述を根拠に
「特に裁判所は、この報告書の内容は日本自らも認めたと強調した」(京郷新聞)
という。
朴氏は、高裁判決を
「先入観だけで下された不当判決」
だとして上告する考えだ。