北朝鮮が核実験の強行をちらつかせている。核兵器そのものが脅威だが、それとは別の危険性が浮上した。地下核実験場があるとされる北東部、豊渓里(プンゲリ)の万塔(マンタプ)山が、繰り返される実験により崩落の危機にあると科学者が指摘したのだ。
これまで、万塔山の地下深くにトンネルを掘って核実験が行われてきた。山が崩れれば放射性物質が外に放出され、風に乗って日本に飛来する可能性も否定できない。
過去に見られなかった地滑りを複数確認
米ワシントンポスト(電子版)の2017年10月20日付記事によると、北朝鮮による通算6回目となる2017年9月3日の核実験の後に、北朝鮮北東部でマグニチュード(M)6.3の地震が発生し、以後の3度の地震が記録されたという。米コロンビア大学の地震学者、ポール・G・リチャーズ氏は、核実験による爆発が地面に大きな力を加え、地震につながったことを説明した。
この核実験から2日後の9月5日、米ジョンズ・ホプキンス大学が運営する北朝鮮分析サイト「38ノース」は、衛星写真を使って、実験後に豊渓里で複数の大規模な地滑りが起きていたと指摘。過去5回の核実験では見られなかった現象だという。
ワシントンポストは、豊渓里にある標高2205メートルの万塔山が「山疲労症候群(tired mountain syndrome)」の危険性にさらされているとの、専門家の見方を紹介した。これはかつて、旧ソ連の核実験場で見られた現象だという。地下核実験による爆発が岩盤の性質を変えてしまい、岩盤が破砕して崩れる原因となるほか、断層構造をも変化させてしまう。
「次」の地下核実験が、弱っている山に「とどめ」を刺すかもしれない。中国核学会の元会長、王乃彦氏は、山全体が崩落した場合に放射性物質が放出され、周辺地域に拡散する可能性を記事中で指摘している。
北海道の大部分や青森県に達する可能性
万一、豊渓里から放射性物質が放出されたら、日本海を越えて日本まで飛散するだろうか。この点、2017年10月30日付の韓国「聯合ニュース」が気になるニュースを配信した。
韓国の政府系研究機関、韓国海洋科学技術院の分析として、北朝鮮の6回目の核実験後に放射性物質がどこまで拡散するかをシミュレーションした。セシウム137の大気中濃度の分布をみると、豊渓里を中心に北東へと拡散。北海道の大部分や青森県に達する可能性があるという。ただし記事では、具体的にどの程度の濃度かは示していない。
核実験とは異なるが、放射性物質の飛散で思い出されるのは2011年3月の東京電力福島第一原発事故だろう。国内ではまず原発から北西の方向にある福島県内の自治体へ高濃度の放射性物質が流れ、以降は東北や関東でも観測された。海外では東アジアほか、太平洋を越えて北米、北欧でも検出されたようだが、いずれもごく微量にとどまった。
より多くの国に影響をもたらしたのは、1986年の旧ソ連・チェルノブイリ原発4号炉の爆発事故だ。10日間にわたって放射性物質の放出が続き、欧州各国に飛び散った。国連環境計画(UNEP)と共同研究を行う団体「GRID-Arendal」が公開している、チェルノブイリ原発事故による放射性物質拡散マップを見ると、1平方メートル当たり10~40キロベクレル検出されている国は、北欧フィンランド、ノルウェー、スウェーデンのほかオーストリア、ギリシャ、ドイツ、英国と広範囲だ。単純比較はできないが、東電福島第一原発事故により、2011年7月時点で、原発から約120キロ西にある福島県会津地方のセシウム沈着量が1平方メートル当たり10~60キロベクレルだったと、会津若松市のウェブサイトが2013年9月19日に報告している。
遠方への放射性物質飛散がどの程度健康に影響を与えるかは、何ともいえない。とは言え、北朝鮮の核実験で万一のことがあれば、どの程度の量がどのくらいの期間飛び続けるのか予測は難しい。豊渓里と北海道は直線距離でおよそ1000キロ。GRID-Arendalの地図を見ると、チェルノブイリ原発から1000キロ以上離れた場所でも、放射性物質が飛来している場所は少なくない。