「柳井さん、一対一で話し合おうよ。僕も1年働いたんだから」
『ユニクロ潜入一年』横田増生さんインタビュー

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「潜入」後、柳井社長に取材を申し込んだ

   潜入取材の目的は、ユニクロの労働環境の実態を探ることだ。横田さんも勤務3カ月ほどで、体重が10キロも落ちた。中でも、年に一度の「感謝祭」セールでの激闘は、本書のクライマックスである。店舗での潜入取材だけではなく、下請け工場のある中国、そしてカンボジアにまで足を運び、関係者の生の声を拾い続けた。

   一方、横田さんは取材だからと言って手を抜くことなく、(柳井正社長の「お言葉」に内心ツッコミを入れながら)一従業員として懸命に働き続ける。その姿は、どこかユーモラスでさえある。

――本書を読んでクスリとしたのが、「もらった金額以上の働きをする」がモットーの横田さんが、自分から売り場のアイデアを出すなど、熱心な仕事ぶりを見せる場面の数々でした。ある意味で「理想的なユニクロ従業員」だったのでは。

横田 「1000円もらったら、1500円分働こう」って、身に染みついてるところがあって。自慢話になるので書かなかったんですが、初めに働いた幕張新都心店の途中面接で、店長が「マスオさん(横田さんの店での呼び名)を採って本当に良かった」みたいなことを言うんです。ああ、この人も裏切ることになるのか、辛いなと思いながら、「ありがとうございます」。
そもそも、潜入取材だからといって、仕事の部分で手を抜いたら面白くないと思うんですよ。鎌田慧さんの『自動車絶望工場』(1973年刊。自動車工場での過酷な労働を描いた潜入ルポ)にしても、6カ月間季節工として、手の感覚がおかしくなるまで働く。だからこそ読者も共感できるし、でないと「真面目に働け!」ってツッコミ入れたくなりませんか。

   上記の感謝祭でも、担当しているレジでミスを犯さない、という目標を立て、大量の客をさばき続けた。しかし、「潜入一年」第1回の〆切とも重なる過酷な日程で、あれこれ注文の多い女性客相手にとうとう、専用アプリを持っているかを聞き忘れる「痛恨のレジミス」が。「それがなければ5日間ノーエラーで行けたのに」と冗談めかして語るが、ちょっと本気で悔しそうだ。

――「クビ」になった後、ユニクロ側から接触はありましたか。

横田 ないですね。とはいえ、『ユニクロ帝国の光と影』も、本になって2カ月くらいしてから訴えられたので、どうなることやら。
こちらからは、書籍化にあたって8月に柳井さんへの取材を申し込みました。返事は、「できません」。10月の決算発表会見も申し込みましたが、「会社の規則でダメです」と。そんなことするから、『物語』が始まるのに......(今回の「潜入」は、2015年の中間決算発表会見への参加を、ユニクロ側が直前になって拒否したことがきっかけ)。

   横田さんは『ユニクロ帝国の光と影』執筆の際、柳井社長にインタビューしたものの、以後は直接取材が叶っていない。「柳井さん、一対一で話し合おうよ。日本一忙しい経営者かもしれんけど、僕もそんなに暇じゃないのに1年働いたんだから。2時間、いや1時間くらい付き合ってもいいんちゃう」。

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