海外旅行先で、英語で話しかけようとしたとき、「通じなかったらどうしよう」と不安になる。思い切って話したら「Huh?(えっ?)」と聞き返されて「アー、やっぱりダメ」と落ち込む。このような経験をしたことはないだろうか。
外国語を話すときは、お酒を軽く飲むと会話力がアップするようだ。英リバプール大学とオランダ・マーストリヒト大学などが、共同研究により導き出した。
発音において高く評価された
マーストリヒト大の2017年10月19日付の発表資料によると、研究チームは、ドイツ語を母国語とする50人を対象に調査を行った。50人はいずれも、最近オランダ語の読み書きと会話を学んだ。対象者を無作為に、少量のアルコールを含んだ飲料と、ノンアルコール飲料のいずれかを飲ませた後、オランダ語で数分間おしゃべりしてもらった。アルコール量は被験者の体重に応じて調節し、例えば70キロの男性の場合なら度数5%のビールを460ミリリットルとした。
会話内容を録音し、オランダ語を母国語とする2人に、被験者のアルコール摂取の有無を知らせずに会話レベルを審査させた。するとアルコールを飲んだ人の方が、特に発音において高い評価を得た。
研究に携わったマーストリヒト大のジェシカ・ワースマン博士は発表の中で、「今回観察できた結果の原因について、さらに詳細が分かるまで注視していかねばならない」と述べた。サンプル人数が50人と少ないこともあり、より深い研究の必要性を指摘した。一方で、軽い飲酒で外国語会話力が向上した背景に、アルコールにより不安が減退した可能性を挙げた。別の研究者は、少量の飲酒だった点を重視し、大量にアルコールを摂取すると外国語の発音に好影響が出ないかもしれないと考える。
羞恥心がコミュニケーション力向上を妨げる
今回の研究の対象者は、「オランダ語を学ぶ、ドイツ語を母国語とする50人」だった。J-CASTヘルスケアがあるドイツ人男性に聞くと、「ドイツ語とオランダ語は多少音が似ていて、私がオランダ語の会話を聞いている時、ある程度は内容の見当がつきます」と明かした。ただ、だからと言ってオランダ語を話せるわけではないと付け加えた。例えば英語と日本語はまるっきり異なる。それと比べればドイツ語とオランダ語は「近い言語」といえるが、会話力は基本的に最初から身に着けなければならない。
こうなるとワースマン博士の指摘通り、「自分のオランダ語が伝わるか」という不安を拭い去るうえでアルコールが役割を果たしたと考えられそうだ。被験者が完璧なバイリンガルではなく、大学でオランダ語を学んでいた人たちという点から見て、自分の語学力に自信が持てない人もいたはずだ。
国際会議の通訳経験が豊富な女性に取材すると、友人やクライアントを観察してきたエピソードを話してくれた。お酒を飲むと「人によっては饒舌、大胆になり、間違いを恐れず外国語でコミュニケーションできるようです」。コミュニケーション力の向上を妨げるのが、「こんな下手な言葉づかいをしたら、人に笑われるんじゃないか」という羞恥心だと指摘。アルコールの力が、「どうしよう」と萎縮する心を解放し、羞恥心のハードルが低くなるのだろうと考える。
言語学が専門で、米国留学経験の豊富な東京都内の女性大学教員にも聞いた。今回の研究結果では、発音が評価された点に注目。「お酒を少し飲むとよくしゃべるようになり、人によっては外国語の発音をまねるのが恥ずかしくなくなって、その言語のネイティブの人には上手に聞こえるのかもしれません」と推測した。