クモやヘビを怖がるのは遺伝だった 赤ちゃんの「恐怖実験」でわかる人類進化

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   「キャ~、クモよ!」「うわ~、ヘビだ~!」。大の大人でもクモやヘビが苦手で大騒ぎをする人が多い。なぜ、人間はクモやヘビを怖がるのか? 単に「気持ちが悪いから」だけでは説明がつかない長年の謎だった。

   独のマックスプランク認知脳科学研究所(MPI)とスウェーデンのウプサラ大学の合同チームが、赤ちゃんの実験から人間は生まれつきクモやヘビに恐怖心を持っていること、つまり遺伝であることを突きとめた。研究成果は国際心理学誌「Frontiers of Psychology」(電子版)の2017年10月19日号に発表された。

  • 赤ちゃんが同じサイズ・色の花の代わりにクモを見た瞬間、瞳孔が大きく拡張したグラフ(MPIのプレスリリースより)
    赤ちゃんが同じサイズ・色の花の代わりにクモを見た瞬間、瞳孔が大きく拡張したグラフ(MPIのプレスリリースより)
  • 赤ちゃんが同じサイズ・色の魚の代わりにヘビを見た瞬間、瞳孔が大きく拡張したグラフ(MPIのプレスリリースより)
    赤ちゃんが同じサイズ・色の魚の代わりにヘビを見た瞬間、瞳孔が大きく拡張したグラフ(MPIのプレスリリースより)
  • 赤ちゃんが同じサイズ・色の花の代わりにクモを見た瞬間、瞳孔が大きく拡張したグラフ(MPIのプレスリリースより)
  • 赤ちゃんが同じサイズ・色の魚の代わりにヘビを見た瞬間、瞳孔が大きく拡張したグラフ(MPIのプレスリリースより)

毒グモ・毒ヘビのいないヨーロッパ人がなぜ怖がる?

   MPIのプレスリリースによると、クモやヘビに嫌悪感を持つ人は非常に多いが、病的にまでクモに恐怖を感じる人を「アラクノフォビア」(クモ恐怖症)と呼ぶ。クモを見ただけで、大きかろうが小さかろうが、毒があろうがなかろうが、大騒ぎをして逃げまどう。心臓の鼓動が激しくなり、パニックを起こし、気を失う人もいる。また、クモがいそうな雑草地や物置に近づくのを嫌がり、日常行動が制限される例もある。同じようにヘビを怖がる人を「オフィオフォビア」(ヘビ恐怖症)と呼ぶ。こういう症状の人が先進国の人口の中で1~5%いるという。

   研究チームリーダーのステファニー・ホッヘル教授は、プレスリリースの中でこう語っている。

「このようにクモやヘビを怖がる人の存在は、不思議な現象です。なぜならドイツには毒グモはいませんからクモは無害な生き物なのです。毒を持つヘビは2種類いますが、遭遇する機会は滅多にありません。これは中部ヨーロッパ全域に当てはまります。毒グモや毒ヘビが多い熱帯地域ならともかく、無害なクモやヘビばかりのヨーロッパ諸国で、なぜクモやヘビを怖がる人がこれほど多いのか、説明することができませんでした」

   ホッヘル教授によると、クモやヘビに対する嫌悪感や不安の理由として、(1)教育や学習からくる文化によるもの(2)持って生まれた先天的なもの、の2つが考えられる。そこで、クモやヘビを一度も見たことがなく、まだクモやヘビが危険であると学習を受けていない生後6か月の赤ちゃんに、クモやヘビを見せて反応を調べることにした。

赤ちゃんの瞳孔は恐怖で大きく広がった

   研究チームは、写真のように同じサイズ、同じ色の花や魚と、クモやヘビの画像を次々に赤ちゃんに見せて反応を調べた。赤ちゃんの反応は、(1)対象を注視する時間(2)瞳孔の開き具合を特殊な機器で測定した。

   赤ちゃんにとって、クモやヘビ、そして花や魚は初めて見る物だ。それなのに、まず花を見せた後、同じ大きさ・同じ色のクモの画像を見せると、瞳孔が大きく拡張した(写真のグラフ参照)。同じ明るさの条件のもとで、急に瞳孔が開くのは大きなストレスを受けた証拠だ。また、注視する時間も長くなった。これは、クモに恐怖や不安を抱き、強く注目して見ていることを示している。同じ大きさ・色の魚とヘビを比べた実験でも同じ結果だった。乳児でさえ、クモやヘビを見ると危険を察知するストレス反応を起こすことが確認された。

   この結果について、ホーヘル教授はこう語っている。

「ヘビやクモへの恐怖は、人間が進化の過程で身につけた防衛反応だと結論付けることができました。数百万年前の霊長類の時代に木の上で暮らしていた時、ヘビや毒グモは脅威だったに違いありません。素早く見つけて素早く逃げる反応が必要だったのです。ほかの研究では、たとえば熊やライオンなど、もっと危険な動物の画像を乳児に見せても、ヘビやクモほどの恐怖反応を示しません。これは、ヘビやクモと共存し脅威だった期間が、熊やライオンよりずっと長かったからだと思われます」
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