これまで犬は、ご先祖様のオオカミより賢くて協同性に富んでいると思われてきた。家畜化され人間と一緒に暮らすことによって、人間や仲間の犬に寛容で友好的な資質を進化させたという「家畜化仮説」だ。
ところが、オオカミに比べると、犬ははるかに「知性」と「協同性」で劣ることが、協同性スキルを調べた実験結果から明らかになった。
人間も犬も「家畜化」して寛容さと協同性を身に着けた
「家畜化仮説」は、人間とチンパンジーの違いについてもよく説明される説だ。チンパンジーは、生まれた赤ちゃんを群れの大人が共食いするため、母親は赤ちゃんが大きくなるまで群れから逃避するほど、「協同性」と「思いやり」に欠ける面がある。人間がチンパンジーに比べ、より仲間に寛容で協同性が強いのは、野生から文明状態に移行し、自らを「家畜化」することで、そういった性格を進化させたというのが「家畜化仮説」だ。犬も家畜化のプロセスを経て、オオカミよりも仲間に寛容で協力し合う性格を身につけたという考え方が動物学の主流だった。
今回、愛犬家には残念な研究を発表したのは、オーストリアのウィーン獣医科大学のサラ・マーシャル=ペシーニ博士らの研究チームだ。米国立科学アカデミー紀要「PNAS」(電子版)の2017年10月16日号に論文を発表した。
オオカミは社会的な動物だ。血縁関係で結びついた家族集団で暮らし、オスとメスが協力して子育てや狩りを行なう。オオカミと犬の協同性をテストするため、マーシャル=ペシーニ博士らは古典的な動物行動実験を行なった。「綱引きテスト」と呼ばれるものだ。檻の向こう側にテーブルを置き、その上にエサが入ったトレーを乗せる。エサを得るためには、2匹の動物が同時にトレーに結びつけられたロープを咬んで手繰り寄せる必要がある(写真参照)。
動物は、一緒にロープを引いた時だけ、ご褒美として生肉を与えられる。互いにコミュニケーションを図り、タイミングを合わせなければならない。「知性」と「協同性」が問われるテストだ。