ボクシング、WBA世界ミドル級タイトルマッチで、村田諒太選手が王者のアッサン・エンダム選手との「因縁の対決」を制し、悲願のベルト奪取となった。
村田選手は対戦前から、目で見る力を鍛えるトレーニングの成果を明かしていた。「ビジョントレーニング」と呼ばれる。村田選手を指導した専門家が具体的なトレーニングを明かした。プロだけでなく、子どもからできるトレーニングでもある。
2年前は目を動かす際に顔も動いてしまった
村田選手は、世界戦の4日前となる2017年10月18日に行われた予備検診の際、ビジョントレーニングについて、2年前から導入したと語った。
ビジョントレーニングの指導者のひとりが、「視機能トレーニングセンターJoyVision」代表で米オプトメトリストの北出勝也氏。米国で「オプトメトリー」を学び、資格を取得した専門家だ。オプトメトリーとは、キクチメガネ専門学校のウェブサイトによると「光学をはじめ生理学、解剖学、心理学などさまざまな面から、眼と視力について研究する学問」と書かれている。
北出氏は視力以外の「視覚機能」の重要性を強調する。視力だけが良くても他の機能に問題があれば、「視覚情報を効率よく入力したり、適切に脳の中で処理をして行動に移すことができません」。
目と手の反応力アップ、攻撃と防御の能力向上
具体的に、北出氏は、村田選手へのトレーニングが以下のようだったとJ-CASTニュースに語った。2年前、初めて村田選手を検査した際に「目を上下左右に動かす際、顔も動いてしまっていました」。このままだと、わずかな目の動きの遅れが生じて相手のパンチをもらいやすくなる。「寄り目」にする際、右目がやや寄りにくいことも分かった。
北出氏は、村田選手の目と手の反応を鍛えるために、ある器具を用いた。ボタンがランダムに光り、「モグラ叩きゲーム」の要領でそれを押してクリアしていくものだ。最初は1分間に70回程度しか押せなかったが、徐々にスピードが増し、現在では150回までタッチできるように上達した。
また、頭を固定したままメトロノームのリズムにのせて眼球だけを「右、左、右、左」あるいは「上、下、右上、左下」などと動かす練習も行った。これも初めはメトロノームの動きを1分間100回としたが、慣れるにしたがって同150~180回と速度を上げても対応できるようになった。
「寄り目」のトレーニングでは、腕を伸ばして指を1本立て、少しずつ指を顔に寄せながら両目で追った。
村田選手はこうしたメニューをほぼ毎日続けてきた。その効果として北出氏は、
「目と手の反応力が上がり、攻撃してくる相手のパンチをブロックする力、逆に動きのある相手に正確にパンチを当てる力の両方が向上しました」
と話した。
北出氏とともに、村田選手のビジョントレーニングを支援したのがWBA世界スーパーフライ級元王者の飯田覚士氏。「日本視覚能力トレーニング協会」を立ち上げて、その普及に努めている。
飯田氏は2016年「おうちで簡単ビジョントレーニング」(ベースボール・マガジン社刊)を上梓。子ども向けに、日々のトレーニングメニューを紹介している。例えば足が遅い、球技が苦手、ダンスがぎこちない、大縄跳びに入っていけない、さらには本を読むのが遅い、右と左を混乱してよく間違えるといった子は、運動神経ではなく「見る力」に問題を抱えている可能性があると指摘。端的には、視力だけでなく、ものを見て体を動かす総合的な力を高める必要があるという。