2017年10月18日から開かれた中国共産党第19回党大会では、習近平総書記が、経済において供給側(サプライサイド)改革や市場化などを推進していくと表明した。
その党大会の前に、民間企業が高速鉄道の建設、運営に参入するという大きな動きがあり、注目を集めている。
共産党大会直前の事業調印
中国では特別なケース以外に、民間企業が道路、鉄道、病院、学校、金融などの関連分野に進出はできない。しかし、今度の党大会前の9月11日、「杭紹台(杭州-紹興-台州)高速鉄道」建設のPPP(Public-Private Partnership,官民連携、すなわち政府と民間資本が連携する)事業契約が調印された。総投資額400億元のうち、上海復星集団(フォースン・グループ)を中心とする民間のコンソーシアムが51%を出資する。51%の出資率は、中国民間資本による初めての高速鉄道建設プロジェクトであり、PPPパターンを採用し建設・運営される最初の高速鉄道となる。
杭紹台高速鉄道PPPプロジェクトの株主構成は、中鉄総(中国鉄道総公司)・浙江省及び紹興市、台州市政府は全て「少数株主」である。高速鉄道建設のけん引役のはずの中国鉄道総公司と地方政府が、主導する地位を民間資本に譲り渡すのは大きな進歩だと言えよう。
浙江省といえば、アリババがここから生まれている。民営自動車メーカーもここにあり、IT関連の多くの経営者も浙江省から輩出している。杭紹台高速鉄道は中国において最も豊かな浙江省で作られていく。
世界的には、現在黒字を実現している高速鉄道プロジェクトの最大の特徴は、いずれも人口密度が高く、商業的に発展している都市圏に位置することだ。杭紹台高速鉄道もこの特徴を備えている。中国政府が進んでこのプロジェクトを民間資本に提供し、支配株主にさせることは、「誠意を見せる」「民に利益を譲る」姿勢がうかがえる。
民間が跳ね返されてきた「スイングドア」
近年、中国政府は「民間資本にとって、中は見えるけれども、入ることのできない『ガラスのドア』及び入れそうに見えるが、入ろうとすると常に跳ね返される『スイングドア』であるという現象を打破すべきだ」と繰り返し強調している。杭紹台高速鉄道プロジェクトは、最も注目すべき模索とブレイクスルーで、「風向計」の意味を持つものであることは間違いない。
歴史からみると、中国でも、鉄道の「支線」の建設と運営に参入した民間企業の前例はあるものの、プロジェクト完成後の運営においては、輸送能力の割り当てなどが、政府部門と国有企業に圧迫され、利益も保障できず、結局のところ、苦心惨憺たる結果、民間企業は退くしかなかった。これは『スイングドア』現象の典型的な現れである。
そのため、杭紹台高速鉄道が完成し、運営が始まってから、いかに高速鉄道網の中で国有企業と「同一視」され、効果を発揮し、民間企業の投資回収が保障されるかどうかが注目される。それができてこそ、『スイングドア』を乗り越えられたと言える。
杭紹台高速鉄道のPPP事業について、『人民日報』は「アピールに値する真のPPP」としている。民間資本主導で、インフラと公共事業の建設や運営を市場化・商業化するうえで、新たなモデルを確立することが期待されているということだろう。
一方で、杭紹台高速鉄道の将来は、完全には楽観視しないほうがいい。民間資本を支配株主にするのは株主構造の設計においては画期的な意味があるものの、鉄道建設後の実際の運営で、もし民間資本の株主と中国鉄道総公司、地方政府などの国有株主代表が取締会で対立が生じた場合、市場ルールによる解決が保障できるかどうかは、恐らく未知のことだからだ。
中国の「官」はいつでも強気一方だということは誰にでもわかっていることで、ここが、国有企業改革の真贋を判断するもっとも大きな材料でもある。
(在北京ジャーナリスト 陳言)