「誰もが見たくなかった深刻な事態に」
そんな中で、「セル・ホスト&マイクローブ」誌に論文が発表された。同誌を発行するセルプレス社のプレスリリースのタイトルは「中国のH7N9型鳥インフルエンザのパンデミック潜在力を追跡調査中 哺乳類モデルで致命的感染力」だ。
それによると、研究チームは中国の患者から採取したH7N9型ウイルスを調べた。すると、すでに人間同士に感染し細胞で増殖しやすい遺伝子変異が起きていた。人の気道などにくっつきやすいタイプに変わり、抗ウイルス薬の効果を弱める変化も起きていた。
そこで、インフルエンザウイルスに対し人とよく似た反応を示す哺乳類フェレット(イタチの仲間)で実験したところ、少量のウイルスでも、せきやくしゃみなどのしぶき(飛沫=ひまつ)で感染が広がり、7割近くが死亡した。ウイルスが肺や脳でよく増殖し、致死性が高いことが分かった。フェレットは人間に代わってインフルエンザ感染を調べる最良の動物モデルだ。つまり、人間同士のせきやくしゃみでも感染する可能性が非常に高いウイルスに変貌していることを示しているという。
一方、マウスの実験でウイルスに対し、抗インフルエンザ薬として一般に使われる「タミフル」などの「ノイラミニダーゼ阻害薬」を試すと、効果が低かった。しかし、ウイルスの増殖に関わる酵素の働きを妨げる薬のアビガン(一般名ファビピラビル)はウイルスの増殖を抑える効果が高かった。
今回の結果について、研究リーダーの河岡義裕教授は、プレスリリースの中でこうコメントしている。
「これまで、飛沫に含まれるようなわずかな量で感染し、哺乳類を殺すほど致死力が高い鳥インフルエンザウイルスは報告がありませんでした。H7N9型ウイルスは鳥から人へ感染を繰り返す過程で、病原性を強め、人から人へ感染するタイプに変わった可能性が非常に高いと考えられます。誰もが見たくなかった進化ですが、これは深刻な事態です。中国は鳥インフルエンザにかかった家禽類の対応を(殺処分ではなく)、ワクチンに頼っている状態です。鳥インフルエンザの流行の監視体制を改善する必要があります」