【バリバラ】(Eテレ)2017年10月15日放送 「知られざる場面緘黙(かんもく)の世界」
場面緘黙(ばめんかんもく)という言葉を知っているだろうか。本来は話せるが、特定の場面でだけ話せなくなる不安障害の一種で、500人に一人いるといわれている。
どういう障害なのか、知識がないと対応も難しい。番組では、当事者4人が、場面緘黙の実情を明かした。
「のどがまひする感じ」
加藤諄也さん(23)は、小学校低学年頃までは学校や外出先でも話せたが、次第に外で話せなくなり、今では母と祖母としか会話できない。
自宅を訪れた番組スタッフが「私どこに座ったらいいですか?」「加藤さんどこに座りますか?」などと話しかけるが、加藤さんは黙ってあいまいなジェスチャーで指示した。
取材は「はい」か「いいえ」で答えられる質問から始まった。
「東京に行ってきたんですね」「楽しかったですか?」と聞かれるとうなずき、「もんじゃ焼きとか食べましたか?」には首を横に振る。
「はい」「いいえ」で答えられない質問には筆談で答える。「緊張のレベルが5段階だとしたら、今いくつくらいですか?」と聞かれたが、不安や緊張でどう言葉にしたらいいか戸惑い、書くのにも時間がかかる。加藤さんは迷った末「3~4くらいです」と書いた。
緊張して話せなくなっている時は「のどがまひする感じです」という。
加藤さんは3年前から新聞配達の仕事をしていて、同僚は特性をよく理解している。
新聞配達所の所長・高嶋浩さん「加藤くんの顔をよく見て、『うん』と言ってるか『ノー』と言ってるか確認します。大事な戦力ですね」
なぜ話せなくなるのだろうか。
臨床発達心理士の高木潤野・長野大学准教授「話したい気持ちはあるが、すごく緊張しやすかったり、不安を感じやすかったりで、どうしても声にならなくなってしまう」
突然なるものなのか。
高木氏「例えば幼稚園や保育園に入園する時、小学校に入学した時などがきっかけで話せない状態になる人は多い。ただ、ある時突然話せなくなるというよりは、元々不安を感じやすかったり、人との関わりが苦手だったりするのが、環境の変化で表に出てきたととらえるとよい」
服選びに緊張してしまう
他人と話す時緊張するという遠藤さん(仮名)は、一人でのショッピングにチャレンジすると決意した。
事前に、8年の付き合いになる臨床心理士の角田圭子さんと、「お店に入る」「店員に試着したいと話しかける」など、ショッピングの際の行動がどの程度緊張するかを書き出して確認。話せなくなった時に店員に見せるため、「状況によって声が出づらいです」と書かれたカードを携帯すると決めた。
角田さん「今できることから少しずつ広げていけば、自信を持って不安を減らして、自分の本当の力を出すのにつながっていくと思います」
チャレンジ当日、難なく店に入り、声をかけてきた店員にも笑顔で会釈できた。しかしそこから店内をうろつくだけで、30分経ったところで番組スタッフに近付いてきた。
「欲しいものがない?」と聞くと首を横に振り、「疲れてきちゃった?」にはうなずいたので、少し休憩することに。買う服を決めるのにとても緊張してしまったのだ。
服選びだけは急きょ母が付き添って手伝い、欲しいものが決まったら再び一人に。店員に近付くと「ご試着されますか?」と聞かれ、自然と試着室に入れた。
「ほかに何かご用意しますか?」との問いには「大丈夫です」と笑顔で返し、無事トップスとスカートを購入できた。
遠藤さん「前よりお店との間に壁がなくなった感じがして、入りやすくなりました」
高木氏「一見何事もなくやっているように見えるが、何ができそうかを丁寧に話し合って、ここまではできる、これはできないかもしれないというギリギリのところを見極めて、その一歩先に挑戦している。大事なのは、本人が『これならできそう』と自分自身で考えること。そして専門家の力を借りるのも重要」
いかにも「話すのを待ってる」空気を出すのはNG
場面緘黙の人にはどういったサポートが適しているのだろうか。
例えば自分が学校の先生だとして、場面緘黙の生徒が音読で声を出せず固まった。
ゲストのルー大柴の「読める時に読みましょうと言う」という提案は、4人中2人が「う~ん」判定だった。
加藤さん「不安になると思いました」
外出すると緊張して話せなくなるというほのっぴさん「次言ってくださいと言われると、『次は絶対言わないと』とプレッシャーになる」
高木氏「例えば二人一組で行う、班の中で行う、別室で行う、読む場所を家にして、録音したものを再生して音読したことにするなどがある。できないから飛ばしてほしい子もいるだろうし、一人一人違うのでちゃんと確認するのが大事」
自分が店員だとして、場面緘黙の人とレジで筆談を始めたが、時間がかかり長い間が空いてしまう時は、「ほかの作業をしながら待つ」に4人が「いいね」と判定した。
雑談や複数人で話す時に自分から話すのが苦手な田中ゆりえさん「急かさずに待ってくれるのがいい」
高木氏「待つのは基本だが、『いかにも待ってます』という雰囲気を出さないのがよい」
MCの山本シュウ「今日の僕の対応、ちょっとズレてたんじゃない?ずっと待ってた。『待ってますよ、安心して下さい』と思って。やいやい言うてつながん方がええんかなと思ってた」
当事者4人から、「言っておきたいこと」が最後に発表された。
田中さん「色々話しかけてくれた人がいたけど応えられなくて申し訳なかった。本当は話したい気持ちがあったのを言えたらよかった」
ほのっぴさん「家では本当に普通にしゃべるので、外で黙ってしまうのがすごく悔しい」
遠藤さん「昔から話せなくて、話しかけられても返事できなくて、無視してると思われるけど、本当は話したくて頑張っているので、もっとたくさん話しかけてほしい」
加藤さん「理解が広まったらいいなと思います」