帝王切開出産は肥満リスク上昇? マウス研究から浮かび上がった理由は

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   近年、帝王切開による出産のリスクを指摘する研究が発表されている。

   話題になったものでは、2015~2017年に相次いで発表された、帝王切開で生まれた子どもは小児喘息リスク発症が高いというもの。さらに、母親の体重とは関係なく肥満になるリスクが上昇するという研究結果も発表された。

   しかし、なぜ帝王切開が喘息や肥満のリスクに影響するのか。そのメカニズムに興味を持った米ニューヨーク大学の微生物学者マリア・ドミンゲス・ベッロ博士らの研究チームがマウスを用いた実験に取り組んだ。

  • 帝王切開のための帝王切開は推奨されない
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原因は腸内細菌叢の生態と成熟状況か

   ベッロ博士らの研究の基になったのは、2016年にハーバード公衆衛生大学院が発表した「帝王切開によって生まれた子どもが肥満になる可能性は自然分娩児より15%高く、母親の体重とは無関係」という研究だ。

   この研究結果は観察研究によるもので、体重増加と出産方法に関連性を見出してはいるものの、その原因となるメカニズムについてはわかっていない。

   とはいえ、実際に人を意図的に自然分娩と帝王切開に分けて比較をするわけにはいかないため、ベッロ博士らはマウスを使って検証に取り組んでいる。

   まず、同じ条件で飼育されて妊娠した母マウスたちのうち34匹は帝王切開で、35匹は自然分娩で出産させ、生まれた子マウスを大人になるまで飼育。その発達過程で子マウスたちの細菌組成を分析するため、採血や組織採取を行い細菌のDNAを抽出したという。

   細菌分析の結果、自然分娩マウスの腸内には体重減少に影響しているとされるバクテロイデス属、クロストリジウム属、ルミノコッカス属の細菌が存在していたのに対し、帝王切開マウスの腸内にはこれらの細菌が存在していないことがわかった。

   さらに、自然分娩マウスの腸内細菌叢(いわゆる腸内フローラ)は大人期までに正常に成熟したが、帝王切開マウスは未成熟なままだった。これは成熟しなかったわけではなく、最初は自然分娩マウスよりも早く成熟が進んでいたが、ある時期から停滞してしまったためだという。

   また気になる体重差だが、帝王切開マウスの体重は15週時点で自然分娩マウスより平均33%増加しており、雌マウスに顕著だった。

   これらの結果から、ベッロ博士らは「人の肥満者と非肥満者を比較した研究でも、特定の細菌群が代謝や消化に影響し肥満から守ることが確認されている」とし、

「帝王切開では母体由来の細菌を取得しきれず、細菌叢が未成熟になってしまい、正常な免疫や代謝システムへの発展を阻害しているのではないか」

と推測している。

足りない細菌を補充する方法はある...?

   世界保健機構(WHO)は2015年に公式声明で「帝王切開は母体や胎児を救うために実施されるべきで、実施率は15%を超えないことを推奨する」としているが、欧米では意図的に帝王切開を希望する女性も少なくないため30%台に達している。

   ベッロ博士は「世界の多くの地域でより帝王切開が実施される可能性が高く、乳児の将来の肥満リスクに本当に影響するのか人でも早期に確認する必要がある」と危機感を示している。

   生まれたばかりの新生児に母親の持っている腸内細菌を与えるため、皮膚に膣液を擦りつける「膣播種」と呼ばれる行為が一部では行われているが、ベッロ博士は失われた細菌のいくつかを補充する必要は認めつつ、

「細菌の補充は生物学的・医学的根拠に則った技術を使用すべきで、根拠が不明な技術を用いるべきではない」

と否定的な見解を述べている。

   ちなみに2017年8月には膣播種が流行しているデンマークの産科婦人学会も「(膣播種には)デメリットを上回るメリットがなく実施すべきではない」と勧告。肌の触れ合いでも細菌が遷移するとして、母子接触の時間を十分確保するよう呼びかけていた。

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