投票日まで1週間を切った衆院選。与野党が対決姿勢を鮮明にしているなか、双方とも「目玉政策」として類似の内容を掲げている分野もある。そのひとつが「幼児教育無償化」だ。
実現すれば、子を持つ家庭にとっては負担が減り、喜ばしいだろう。半面、いまだに残る待機児童問題を指摘して「教育無償化より、こちらを先に解決して」と願う母親もいる。
母親が働きやすい環境の整備を求める声
各党の公約を点検してみると、対象年齢など中身に多少の違いはあるがどこも教育無償化を盛り込んでいる。幼児教育だけでなく、高校や大学の教育費にまで踏み込んだり、給付型奨学金の充実をうたったりする内容もある。
この点について2017年10月12日放送の「とくダネ!」(フジテレビ系)では、番組コメンテーターで社会学者の古市憲寿氏が、「一番お母さんが大変なゼロ歳~2歳の保育園が足りないとか、そこまで責任を持つという政党がない気がする」と指摘。待機児童問題がいまだに解決せず、「無償化の前に待機児童ゼロの実現、保育園の整備ができるのか」と疑問を投げかけた。また読売新聞は10月12日付朝刊の社説で「最優先すべきは、保育所に入れない待機児童の解消だ」と主張した。
J-CASTヘルスケアは、5人の母親に教育無償化と待機児童問題について意見を聞いた。それぞれ「0~2歳の子の母」「3歳以上、小学校入学前の子の母」「幼児教育を終えている子の母」と立場が違う。
東京都内の30代女性は現在、仕事の際に次女を東京都が認証する保育所に預ける。だが保育所に入れるまでは相当苦労したと話す。そのうえで「もちろん待機児童問題の解決を優先してほしい」と望むが、「保育所をいくら建てても、保育士の人数も含めて足りない気がします。政治家には、もっと広い視野を持って動いて欲しい」と注文を付けた。
別の30代女性は、4歳の男の子のママだ。待機児童全体の約87%がゼロ歳~2歳という現実からみれば、最も大変とされる時期は乗り越えてきた。今後のことを考えれば教育無償化の方が彼女にとっては有益かもしれないが、「待機児童問題を優先すべきだと思います」と断言した。周囲には、国の認可保育所に入れず、諦めた人がいる。「親世代が働きやすく、安定した収入を確保できるような環境を整える策も含めて」各党に求めたいとした。
もうひとり、6歳の子の母に聞くと、夫婦共稼ぎで、保育料は収入に応じた金額なので「そこまで負担に感じておらず、教育無償化にはあまり関心がありません」。子がまもなく小学校に入学する年齢のためか、関心は学童保育(放課後児童クラブ)の時間延長に向いている。ただ、個別の施策というよりは、仕事を持つ母親が安心してキャリアを積めるような社会環境全体の整備を求めている。
子育てが一段落してからの会社復帰は困難
ふたりの小学生の子を育てる30代女性は、「教育無償化と待機児童問題では、対象が微妙に異なるので容易に比較できない気がします」との意見だ。ただ教育無償化は、それが実際には必要のない層も含めた「バラマキ」のイメージがあり、「働きたいのに子どもを預ける場所がない」女性の切実なニーズにこたえるためには待機児童ゼロの実現を目指してほしいと答えた。
子どもが義務教育を終え、手がかからない年齢に達したという40代会社員の女性にも取材した。出産後も仕事を続けている経験から、優先すべきは「待機児童の解消」だと即答。まず「子育てが一段落してから復帰というシナリオは、私が勤務する会社では描けませんでした」。そのため、産休・育休後すぐの会社復帰を前提にしなければならず、保育所探しは必須だった。
「認可保育所に入る」はひとつのハードルだが、それを超えても働くママの悩みは尽きない。例えば幼い子が発熱すると、保育所に預けられない。この女性が住む自治体では「病児保育」の施設を利用できたが、数が少ないうえ場所も遠くて「結局、自分が会社を休んで面倒を見ることが多かった」と振り返る。また認可保育所が18時までで、仕事の都合で遅くなる場合、18時を過ぎたら多少高額でも無認可の保育所に預けざるを得なかった。「夫や家族の支えだけでなく、本当に困ったときのために自治体のサポートがもっと充実していたら、もう少し楽だったと思います」。
一方、教育無償化については、「キャリアを重ねている女性は教育熱心な人が多く、『無償化』で余力ができた分を我が子の塾通いや習い事に投じるのではないでしょうか」と考える。
5人の母親に聞いた範囲では、待機児童問題の解消を求める声が圧倒した。世の子育てママには、各党の教育施策がどう聞こえているだろうか。