マペットのキャラクターと人間の俳優が登場する米国の教育番組、「セサミストリート」を見たことがない人はいないだろう。
米国では1969年から放送を開始し、語学から道徳、科学まで幅広い分野の知識を子どもにわかりやすく伝えてきた。さらに、子ども自身が番組を通して多様な情報に触れられるようにと同性愛に言及したり、自閉症のキャラクターを登場させるといった取り組みにも積極的だ。
そんなセサミストリートが2017年10月6日、米国の慈善団体ロバート・ウッド・ジョンソン財団(RWJF)と協力し、子どもの心的外傷(トラウマ)ケアプログラムを提供すると発表した。
ACEの影響を少しでも軽減したい
セサミストリートを制作している非営利団体セサミ・ワークショップは以前から、「社会の中で最も脆弱な存在である子どもたちが健康的に過ごすためのプログラムを提供する」という目的のもとに番組制作を行ってきた。
健康だけでなくいじめや自殺などの問題も取り上げ、詳細な情報や相談窓口を紹介するコミュニティサイト「Sesame Street in Communities」を運営し、保護者はもちろん18歳以下のすべての子どもに適切な情報を提供するという姿勢を明確にしている。
そんなセサミストリートが現在問題視しているのが「Adverse Childfood Experience(ACE、幼少期の有害な体験)」だ。
ACEとは具体的に自然災害や予期せぬ暴力行為、家庭内暴力、親の薬物乱用や精神疾患、離婚、親の逮捕(それによる育児放棄)などを指す。こうしたACEを経験した数が多くなるほど子どもの発達や学習、健康にネガティブな影響を与えるリスクが増すとされているのだ。
セサミストリートによると2016年の全米調査では18歳未満の子どものうち50%が最低でも1つのACEを経験しており、2つ以上も20%以上。多くの子どもたちが危険な状況に置かれていると憂慮している。
しかし、ACEを経験しても早期に適切なトラウマケアやサポートを受けることで、その影響を最小限に抑えることができるという。その一端をセサミストリートの番組で担おうというプログラムなのだ。
医師やソーシャルワーカーが登場して解説しても子どもにとっては理解しづらいが、ビッグバードやエルモなど馴染みのあるマペットたちが解説すれば、親しみやすく受け入れやすい。
プログラムはすでに始まっており、10月1日にラスベガスで銃乱射事件が起きた直後には、苦しむビッグバードが「安全な場所」を見つけ、リラックスする方法を知るというストーリーが公開された。
その内容は怒りや悲しみ、不安、混乱に苦しむビッグバードが、「Hooper's Store」という雑貨店の店長のアランに相談するというもの。アランは「困難なことが起きたあとは、自分が平和だと感じる安全で落ち着いた場所に行くといい」とアドバイスし、
「深呼吸をして、自分にとって大切な人のことを考え、テディベア(ビッグバードが大切にしているもの)と一緒に過ごすといい」
と具体的な過ごし方も説明する。ビッグバードはこのアドバイスを実践し、こうすることで自分の気持ちが落ち着くことを知るのだ。
エルモやカウント伯爵も登場
アドバイスは適当な脚本ではなく、RWJFの協力のもと、ソーシャルワーカーや専門家によって綿密に組み立てられたケア方法だという。
このほかにもカウント伯爵(数字やアルファベット教育に登場するドラキュラを模したキャラクター)がクッキーモンスターにリラックスできる呼吸法を紹介する、エルモが毛布で「自分だけの場所」を作り上げるといった複数のプログラムが公開されており、「Sesame Street in Communities」や公式ユーチューブチャンネルで見ることができる。
どれも平易な言葉で、自分の心が傷ついたときや困難に直面した時、自分でどのような対処をすればいいのかをわかりやすく解説する内容だ。
「Sesame Street in Communities」では保護者に向けた情報も掲載されており、トラウマケアに重要な4つのポイント、「子どもに愛していること、常にサポートすることを伝える」「子どもの話を聞いたとき『大したことじゃない』『そんなことを心配するな』など否定的回答をしない」「子供が自分の気持ちや経験について話す、描く、書くことを通して自分自身を表現できるようにする」「分からないときは正直に『分からない』『知らない』と言ってよい。その上で一緒に解決方法を模索する」を紹介している。