岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 独立戦争から引き継がれる「銃」というDNA

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   前回の記事(2017年10月8日掲載)で、「一人暮らしだったら、身を守るために拳銃を持つ」と話していたダイアン(59)は以前、人手が足りない時に勤務する「予備警察官」として、5年間、働いた経験がある。そのダイアンはこう言う。

「一般市民が半自動式銃や連射装置を持つべきではないし、精神疾患のある人も銃を持つべきではないと思う。でも、家に誰かが侵入してきても、警官がすぐに駆けつけるわけじゃない。銃以外で、体格のいい男にどうやって太刀打ちできるの? 包丁だったら相手に近づかなければならない。銃があれば発砲しなくても、相手に近づかず脅すことができる」
  • 米国オハイオの銃専門店のウエブサイト
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大学教授に連れていかれた射撃場

   私が大学時代に留学したオハイオ州の町を再訪した時、お世話になった大学教授が車で私を空港に送る途中で、「銃専門店を見せたい」と車を止めた。カウンターのショーケースにずらりと並んだ拳銃や、壁に掛けられたライフル銃などを、客が気軽に手に取っていた。

   同州で最大規模の銃専門店で、拳銃のほか、ライフル銃、散弾銃、機関銃など2000丁の銃器を扱う。ギフトカードもある。

   すぐそばで銃声が聞こえた。射撃場が併設されていた。銃を借りて撃てると知った教授が、私にも射撃を勧めた。初めはためらったが、やってみた。

   鼓膜を保護するためにヘッドホン型のイヤーマフを付け、火薬などから目を守るためにメガネを掛ける。

   初めて手にした拳銃は、ずっしりと重たい。人型の紙の的をめがけて銃を手に取った時、体が震えた。引き金を引いた瞬間、耳をつんざくような爆発音がし、全身に強い衝撃を感じた。

   「これで人が殺せてしまう」。言いようのない恐怖を覚えた。

   教授は私を見て微笑み、「私は銃が大好きなんだ(I love guns.)」と言った。

   犯罪の多いスラム街で育ち、8歳の頃から街で銃を発砲していたという教授。

「銃を規制しろという人がいるが、そうすれば結局、一般市民は身を守る手段を奪われ、法を犯す犯罪者が大量の銃を持つことになる」

   そこに「武装格差」が生まれる、ということか。

オンライン、カードでも買える銃

   高齢者センターでは、絵を描いたり、歌を歌ったりするように、「射撃」の講座を用意しているところもある。この射撃場にも、保身のために高齢者が射撃訓練に訪れるという。

   射撃に1人で来ていた30代くらいの男性は、前にこの店で拳銃を購入した。

   その人は、「月に一度は練習に来ているよ。銃を持っていても、いざという時に使えなければ意味がないからね。時々、母親と妻も連れてくるよ」と話した。

   スポーツ感覚で射撃を楽しみに訪れる人たちも多い。

   この店のウエブサイトには、現在、こう書かれている。

「銃器を買うのは、比較的簡単です。初めての銃器かどうかに関わらず。オハイオ州では州の許可や免許は不要です。この州には銃器登録がないためです...購入したい銃器が決まれば、手続きにかかる時間はわずか15分です(Purchasing a firearm is relatively easy to do, whether it is your first firearm or not. No state permit or license is required in the state of Ohio, since there is no firearm registration in this state.... Once you've decided which firearm(s) you'd like to buy, the rest of the process takes only about 15 minutes.)」

   さらに、「拳銃購入は21歳以上、ライフル銃と散弾銃は18歳以上で、簡単な身元調査のための書類に記入し、現住所の書かれた運転免許証などのIDを見せる。オハイオ州の住民であれば、あとは身元調査をパスすれば銃を所持できる」とされている。

   オンラインでは、ほしい商品をクリックし、クレジットカードで購入できる。

   アメリカでは拳銃が、200ドルほどから手に入る。銃専門店だけでなく、スポーツ用品店や質屋、大手スーパーマーケット、見本市などでも銃を買える。

   ラスベガスの事件の容疑者が銃を購入した店のひとつ、「Guns & Guitars(銃とギター)」では、その名のとおり、楽器と一緒に銃が売られている。

銃乱射事件が起きると銃器関連株が上がる

   銃乱射事件が起きると、銃規制の声が高まる一方で、銃を求める人も増える。

   一般の人の拳銃所持を禁止すべきではないという人の割合は、1959年には37%だったのに、2015年には76%と2倍になっている。銃犯罪が急増した1960年代と1970年代、そしてニューヨーク同時多発テロ事件を機に、一気に急増している。組織的なテロを個人が拳銃で防げはしないだろうが、不安がアメリカ人を銃購入へと駆り立てるようだ。

   そして、銃乱射事件が起きると、銃器関連の株価が上昇する。銃規制が強化される可能性を考え、今のうちに銃器を買っておこうとする人が増えるからだ。

   今回のラスベガスの乱射事件直後も、銃器関連の株価が上がった。が、これまでと比べ、上り幅はそれほど大きくはなかった。トランプ政権下では、銃規制の可能性は低いと人々は考えている。

   これだけ乱射事件が続いても、なかなか銃規制が進まず、州によって違いはあっても、日本と比べれば、銃が野放しになっているように見えるアメリカ。

   政府も警察も自分の身を守ってくれない。だから、自分で自分を守らなければ、誰が守ってくれるのか。そして、万が一の時には、国家権力に対しても、武力を使って戦うことになる。銃規制がなかなか進まない背景のひとつには、独立戦争の時代から引き継がれた、そんなアメリカ人のDNAがあるのかもしれない。

(敬称略。この項続く)(随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。


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