「国民病」と呼ばれる慢性腎臓病(CKD)。日本人に腎臓病が多いのは塩分が多い食生活によるものと思われてきたが、日本人は遺伝的に腎臓の中の毒素を取り除く器官が欧米人より少ないことが初めて明らかになった。
東京慈恵医大の神崎剛助教らと豪州モナッシュ大学のジョン・F・バートラム教授らの国際共同チームが、米医学誌「JCI insight」(電子版)の2017年10月5日号に発表した。研究者は「日本人は、腎臓が弱いことを認識して塩分のとりすぎや肥満に気をつけて」と呼びかけている。
毒素をろ過する器官が少なく、高血圧リスク高い
日本は世界的に見ても慢性腎臓病の患者が非常に多い。2008年の日本腎臓学会による推計では、日本の成人の8人に1人にあたる約1300万人が慢性腎臓病患者と推測され、治療を要するレベルの患者が約600万人いるという。厚生労働省の2016年の調査によると、悪化して腎不全になる人が多く、約32万人が人工透析を受けている。人口透析の医療費負担が年間1兆円以上に上ることが議論を呼んでいる。日本人になぜ腎臓病が多いかは不明で、これまでみそ汁と漬け物、醤油が大好きな食文化にあるという説が出されてきた。
「JCI insight」誌の論文によると、研究チームは日本人に腎臓病が多い理由は、腎臓にある血液中の毒素や老廃物をろ過する微細な器官「ネフロン」の数が少ないのではないかと考えた。数が少ないと腎機能は弱くなる。ネフロンは腎臓1個あたり数十万~200万個あるといわれるが、人種によって差が大きいことがわかっている。ネフロンの数は出生時に決まっており、誕生後は増えない。そればかりか、塩分が多い食生活などを続けると数が減少していく。
研究チームは「献体」をした51~84歳の日本人27人(正常血圧者9人、高血圧患者9人、慢性腎臓病患者9人)の腎臓を病理解剖し、ネフロンの数を調べた。すると、次のことがわかった。
日本人の腎臓サイズは小さい
(1)高血圧でも腎臓病でもない正常血圧者のネフロンは、平均で約64万個あった。これは、欧米人の平均90~100万個の64~71%にあたる。腎機能が比較的健康な人でも欧米人の3分の2ほどしかないわけだ。
(2)高血圧患者の平均は約39万2000個だった。これは欧米人の平均の39~43%だ。
(3)慢性腎臓病患者はさらに少なく、平均で約26万8000個だった。これは欧米人の平均の27~30%だ。
これらのことから、神崎助教らは論文の中でこうコメントしている。
「日本人は体格が小さく、ネフロンの数がもともと少ない可能性があります。ほかの研究でも日本人の腎臓のサイズが小さいことが示されています。また、献体者の身長が低いほど、腎臓の大きさは小さい傾向がみられました。今回の研究によって、ネフロンの数が少ない人ほど高血圧と慢性腎臓病のリスクが高くなることが確認されました。日本人は、腎臓が小さいことを認識して、食生活に気をつける必要があります」