東名高速道路で2017年6月、男が運転する車が1台のワゴン車に対して進路妨害を繰り返し、追い越し車線に無理やり停車させたことで死亡事故を招いたとされる一件が、注目を集めている。
逮捕された石橋和歩容疑者(25)は、この事件の前にも別の場所で3台の車の進路を妨害する行為をしていたと報じられた。わざと危険な運転をするドライバーの心理とは、何なのか。
同じ常識を持った人じゃない「危険物」のつもりで
石橋容疑者は東名高速のパーキングエリアで、ワゴン車を運転する夫婦から迷惑駐車を注意されたことに腹を立て、高速道でワゴン車を追跡。極端な接近や割り込みといった危険行為の末に夫婦を追い越し車線に停車させ、無理に車から下ろそうとした際に後ろから大型トラックが追突、夫婦が死亡した。
逮捕前、石橋容疑者は注意されて「カチンときた」という趣旨の話をしていた。だがこれだけで暴走を繰り返し、極めて危険な「追い越し車線での停止」を強要するのは、常識では考えられない。
ただ他の車をあおったり、強引に割り込んだり、無理な幅寄せをしたりという危険行為はしばしば見られる。2017年10月13日放送の「ひるおび!」(TBS系)では、実際にドライブレコーダーに記録された事例を見ながら対処法を話し合った。
「交通事故鑑定ラプター」所長の中島博史氏は、危険ドライバーに絡まれたら「とにかく離れる」と強調。こうした相手は「自分と同じ常識を持った人じゃない、『危険物』のようなつもりで」考えた方がよいと話す。
交通裁判を多く手掛ける弁護士の高山俊吉氏は、「どうしてあおるか」というドライバーの心理を探った。基本は他の車に対する「お前、ジャマだ、どけ」という傲慢さ。こうした態度は癪に障るが、対抗しようとすると大きな事故につながりかねない。放っておくのが無難だ。ところが高山氏は、相手にされないと余計に嫌がらせをしてくる場合もあるというから、厄介だ。さらに、自分が相手の気分を害した覚えが全くなくても勝手に絡んでくる理不尽なケースもあるという。
プロのトラック運転手でも「立腹・イライラ」が最多
運転中のドライバーの心理に関して、国際交通安全学会(IATSS)が2009年3月、「ドライバーの感情特性と運転行動への影響」と題した興味深い報告書を発表している。
IATSSでは、主に車両運搬用大型トレーラーを業務として運転する男性の職業運転手18人(年齢は当時41~52 歳)を対象に、各自60分間の聞き取り調査を実施。「感情ストレスの分類とその原因」と「対処方法」を分析した。
まず運転中の感情ストレスを分類したところ、最も多かったのが「立腹・イライラ」で全体の30.6%を占めた。具体例として「あおられることは頻繁。確かに腹は立つ」「車間距離をあけて走っているところへ、いきなり曲がってきたり、パッっと割り込んでくる車があると、カっとなる」などとある。実際に「立腹・イライラ」の原因には「他車の行動」が多く指摘されていた。大型トラックのためスピードがそれほど出ない、また業務上安全走行に最大限配慮しているなかで「合図なしに割り込んでくる車両、突然減速する車両、優先関係を無視する車両など、自己中心的な運転をするドライバーに対しては、怒りやイライラ感を知覚する傾向がある」という。
次に対処方法だが、運転手が若いころの経験談として「抜かれたら抜き返す」「車を止めて相手と口論」という回答もあった。ただし年齢や経験を重ねるにつれて、相手を先に行かせたり、自分の感情をコントロールしたりして自制するケースが増えている。
車を運転中にイライラする、「ハンドルを握った瞬間から気が荒くなったり、他の車に文句を言ったり」する人の心理について、「日本アンガーマネジメント協会」代表理事の安藤俊介氏が2016年4月11日付の朝日新聞デジタルで論じている。
理由のひとつは「車が自分の思い通りに動く『鎧(よろい)』のようなものだから」という。自分が守られている空間にいると感じ、気が大きくなる、思い通りになると思っているからこそ、思い通りにならなかった時に怒りを覚える、というのだ。
もうひとつは「匿名性」。ナンバーは付いていても誰の車かまでは調べないと分からない。しかも車内はプライベート空間なので、本性を表しやすい。
他の車に割り込まれたりしても、とにかく冷静さを保つことが先決だ。怒りにまかせてクラクションを鳴らしたりして事を荒立てては、事故を招く可能性が高まるだけ。理不尽だとは思っても、下手に「お付き合い」しないことで自分を守るしかない。