今年も残り2か月弱となり、そろそろ年末年始の帰省を考え始めるタイミングだろう。実家に対する懐かしさと共に思い浮かぶのは、ひんやりとした床や異常に寒い廊下、水回りの記憶だ。
そんな昔ながらのおじいちゃんの家から今の家、これからの家を体感できる施設「住まいStudio」を2017年10月1日に建材・設備メーカーのLIXIL(リクシル)がオープンしたという。「これからの家はともかく、昔ながらの家なんて帰省すればいくらでも体感できるのに」と訝りつつ、取材に向かった。
「温度差あるある」に覚えがありませんか
リビングの暖房器具は全開で、部屋の上のあたりは頭がぼんやりするほど温まっているが床は冷たいまま。抵抗するために厚手のソックスを履いたり、思わずつま先立ちになってしまう。
風呂やトイレに行こうとリビングから一歩出ると極寒の廊下。あまりの冷たさに野菜やミカン箱が置かれ簡易冷蔵庫化している中を進み、脱衣場で服を脱ごうものなら風呂に入ろうとしたことを後悔する。
こうした、古い家やおじいちゃん(もしくはおばあちゃん)の家にまつわる「温度差あるある」の原因となるのは「住宅の断熱性能の低さ」だと指摘するのは、リクシルのサッシ・ドア事業部長の関塚英樹氏だ。
体感型施設に自信を見せるサッシ・ドア事業部長の関塚英樹氏
「特に部屋間の温度差が大きいと血圧の急激な変動を引き起こし、血管や心臓に与える負荷も少なくありません。冬場には住宅で循環器疾患(心疾患や脳血管疾患)によって亡くなる方が多いというデータも発表されています」(関塚氏)
若い人はもちろんだが、高齢のおじいちゃんやおばあちゃんにとっては冬の家が健康を脅かす存在になってしまいかねない。
「断熱性能の向上をはじめとする住宅の高性能化は、冷暖房費が安くなるといった省エネ上の観点だけでなく、健康で快適な住まいを実現するためにも大切だと考えています」(関塚氏)
少ないエネルギーで健康・快適な家は確かに素晴らしいと思うが、そのメリットがわかりにくいのも事実だ。「言うほど違うのだろうか」と疑問を抱きつつ、「体感していただければわかります」という言葉に促され、体感エリアへと進んだ。
大半の人は「昔の家」で寒さを我慢していた
「住まいStudio」内は大きく「Studio ‐冬‐」と「Studio ‐夏‐」に分かれており、季節ごとの室内環境の違いが再現されている。
「Studio ‐冬‐」は冬を想定し0度の環境に設定された巨大な空間の中に「昔の家」「今の家」「これからの家」という3つの家が設置され、ぞれぞれの住宅の室内環境の違いを体感できる。
3つの家は適当に分けられているわけではない。住宅の性能水準が異なるのだ。
「昔の家」は1980年の省エネルギー基準で「今の家」は2016年基準。「これからの家」は民間団体や専門家が設立した「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会(HEAT20)」が提案する、より高い性能グレードに基づいている。徐々に断熱基準が向上しているわけだ。
最初に案内されたのは「昔の家」だ。中に入ると足元ひんやり頭は暖かく、「ただいま」と言いたくなる感覚。案内してくれた「住まいStudio」の責任者の亀下隆氏も、「入った人には実家みたいだとよく言われます」と太鼓判を押すなじみのある環境だ。
スリッパを脱いで床に立つとかなり冷たく、外に面した窓側はカーテンを閉めなければ立ち続けるのは辛い。部屋のサーモグラフを見せてもらうと、20度のエアコンは全開で体感温度も20度は超えているが、床や壁は真っ青。赤や黄色は人だけだ。
暖かいのは人だけという状態に
さらに、暖房のない廊下やトイレを模したスペースに入ると、思わず「さっむ!」と声が出た。室温は9度で、10度以上差がある。こんなところにミカン箱を置くのは取りに行く人のことを考えていない。素直に冷蔵庫に入れるべきだとつくづく思わされる。
「『昔の家』といってもはるか昔のというわけでもありません。現在ある住宅のおよそ75%はこの基準以下で建てられたものです」(亀下氏)
「おじいちゃんの家の温度差あるある」ではなく、「大体のみんなの家の温度差あるある」だったわけだ。考えてみると記者の家も夏は暑く冬は寒い。急に他人ごとではなくなってきた。
続いて「今の家」だ。最新の基準ということもあり、サーモグラフ上で青く表示される部分はかなり減っている。床の冷たさも緩和され、エアコンは20度だが体感温度は23度。記者の住む家の冬よりもはるかに快適だが、窓に近づくとやはりひんやりとした冷気を感じる。壁の近くも少し寒い。
2016年基準でも窓際がまだまだ寒い
暖房がついていない空間も「昔の家」よりはマシだが、ずっとそこにいろと言われると怒りを覚えるのは間違いない。とはいえ、総じて「昔の家」よりは改善されているとはっきり感じる。
「『今の家』で寒いと言っていたらおじいちゃんが怒るな」などと考えつつ、「これからの家」はどれほどなのかと部屋に入ると、当たり前だが暖かい。さらに、窓際や壁際でもムラなく暖かく、どこからともなく冷気が忍び寄ってくるような感覚もない。
お洒落なだけではない。温かさも抜群の「これからの家」
サーモグラフでも一目瞭然で、壁や床に暖房が内蔵されているわけでもないのに窓も含めて部屋全てが黄色い。中にいる人も「昔の家」「今の家」では黄色だったが、「これからの家」では真っ赤だ。
完璧な暖かさ。火を放ったわけではない
体感温度は「今の家」と差がないが、部屋全体が均一に暖かいためより暖かくなっているようにも感じる。非暖房空間はそれなりに寒いものの、部屋を移動したときに感じる圧倒的な寒さはなく、まさに快適だ。
「さすがに極地で外部環境が極寒となるとわかりませんが、0度であれば室内で寒さを感じることはありません」(亀下氏)
強いてデメリットを挙げるなら廊下や部屋にミカンや野菜を放置できなくなることくらいではないだろうか。
続いて「Studio ‐夏‐」では夏の日差しを再現した部屋の中で、南からの強い光や西日を効果的にさえぎりつつ、明るさや視覚は確保できる可動式のテントや遮光シャッターを体験。冬はもちろん、夏の快適さも作ることができると身をもって理解した。
室内で南からの強い日差しも西日も体感できる
家を建てる前に知っておきたい
高断熱・高気密といった住宅の性能は図面でもわからないため、体感するしかない。
「高性能な住宅を希望するお客さまは多いのですが、具体的な高断熱・高気密の効果はあまり知られていないのが現状です。実際に家づくりの検討に入ると、水回りの使い勝手などが気になってしまい、建てた後に部屋の温度差や結露、カビ・ダニが気になるというギャップも生じてしまいます」(関塚氏)
ハウスメーカーならモデルハウスがあるかもしれないが、規模が小さなハウスビルダーがモデルハウスを用意するのは難しい。でも、体感してもらわなければその素晴らしさはわからない。そこで、これから家を建てようと考えているユーザーのために「住まいStudio」がオープンしたというわけだ。
記者も最初は「気合いで我慢すればいいだろ。冬は寒いもんなんだよ」などと考えていたが、あの暖かさを知れば「一年中快適なほうがいいだろ」と手のひらをクルクルしてしまった。
「おじいちゃんの家を体感したい」「そんな快適なわけがない」「自分の家のほうが圧倒的に寒い」という人には是非「住まいStudio」で体感してもらえればと思うが、あくまでも家を建てることを検討している人のための体感施設なので完全予約制だ。ハウスビルダーを通してリクシル営業担当者まで予約申し込みをする必要がある。
興味が湧いた人やショールームの全貌を知りたいなら、まずは公式サイトを見てはどうだろう。