大半の人は「昔の家」で寒さを我慢していた
「住まいStudio」内は大きく「Studio ‐冬‐」と「Studio ‐夏‐」に分かれており、季節ごとの室内環境の違いが再現されている。
「Studio ‐冬‐」は冬を想定し0度の環境に設定された巨大な空間の中に「昔の家」「今の家」「これからの家」という3つの家が設置され、ぞれぞれの住宅の室内環境の違いを体感できる。
3つの家は適当に分けられているわけではない。住宅の性能水準が異なるのだ。
「昔の家」は1980年の省エネルギー基準で「今の家」は2016年基準。「これからの家」は民間団体や専門家が設立した「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会(HEAT20)」が提案する、より高い性能グレードに基づいている。徐々に断熱基準が向上しているわけだ。
最初に案内されたのは「昔の家」だ。中に入ると足元ひんやり頭は暖かく、「ただいま」と言いたくなる感覚。案内してくれた「住まいStudio」の責任者の亀下隆氏も、「入った人には実家みたいだとよく言われます」と太鼓判を押すなじみのある環境だ。
スリッパを脱いで床に立つとかなり冷たく、外に面した窓側はカーテンを閉めなければ立ち続けるのは辛い。部屋のサーモグラフを見せてもらうと、20度のエアコンは全開で体感温度も20度は超えているが、床や壁は真っ青。赤や黄色は人だけだ。
暖かいのは人だけという状態に
さらに、暖房のない廊下やトイレを模したスペースに入ると、思わず「さっむ!」と声が出た。室温は9度で、10度以上差がある。こんなところにミカン箱を置くのは取りに行く人のことを考えていない。素直に冷蔵庫に入れるべきだとつくづく思わされる。
「『昔の家』といってもはるか昔のというわけでもありません。現在ある住宅のおよそ75%はこの基準以下で建てられたものです」(亀下氏)
「おじいちゃんの家の温度差あるある」ではなく、「大体のみんなの家の温度差あるある」だったわけだ。考えてみると記者の家も夏は暑く冬は寒い。急に他人ごとではなくなってきた。
続いて「今の家」だ。最新の基準ということもあり、サーモグラフ上で青く表示される部分はかなり減っている。床の冷たさも緩和され、エアコンは20度だが体感温度は23度。記者の住む家の冬よりもはるかに快適だが、窓に近づくとやはりひんやりとした冷気を感じる。壁の近くも少し寒い。
2016年基準でも窓際がまだまだ寒い
暖房がついていない空間も「昔の家」よりはマシだが、ずっとそこにいろと言われると怒りを覚えるのは間違いない。とはいえ、総じて「昔の家」よりは改善されているとはっきり感じる。
「『今の家』で寒いと言っていたらおじいちゃんが怒るな」などと考えつつ、「これからの家」はどれほどなのかと部屋に入ると、当たり前だが暖かい。さらに、窓際や壁際でもムラなく暖かく、どこからともなく冷気が忍び寄ってくるような感覚もない。
お洒落なだけではない。温かさも抜群の「これからの家」
サーモグラフでも一目瞭然で、壁や床に暖房が内蔵されているわけでもないのに窓も含めて部屋全てが黄色い。中にいる人も「昔の家」「今の家」では黄色だったが、「これからの家」では真っ赤だ。
完璧な暖かさ。火を放ったわけではない
体感温度は「今の家」と差がないが、部屋全体が均一に暖かいためより暖かくなっているようにも感じる。非暖房空間はそれなりに寒いものの、部屋を移動したときに感じる圧倒的な寒さはなく、まさに快適だ。
「さすがに極地で外部環境が極寒となるとわかりませんが、0度であれば室内で寒さを感じることはありません」(亀下氏)
強いてデメリットを挙げるなら廊下や部屋にミカンや野菜を放置できなくなることくらいではないだろうか。
続いて「Studio ‐夏‐」では夏の日差しを再現した部屋の中で、南からの強い光や西日を効果的にさえぎりつつ、明るさや視覚は確保できる可動式のテントや遮光シャッターを体験。冬はもちろん、夏の快適さも作ることができると身をもって理解した。
室内で南からの強い日差しも西日も体感できる