人生において幸せなライフイベントが「結婚」だとすると、その反対は「離婚」だろう。
2015年には米ペンシルベニア州立大学によって「両親の離婚は子どもの健康にネガティブな影響を与え、さらに子どもの将来の離婚率を上昇させる」とする研究結果が発表されている。離婚という心理的・環境的影響が新たな離婚を引き起こしてしまうというわけだ。
しかし2017年10月4日、スウェーデンのルンド大学と米バージニア州連邦大学(VCU)から、まったく異なる可能性を指摘する研究結果が発表された。離婚は遺伝的影響によるものではないかというのだ。
養子は養父母の離婚に影響されない
VCUの心理学部准教授であるジェシカ・サルヴァトーレ博士は、同大のプレスリリースの中で「離婚した両親の子どもは離婚しやすい」という離婚の連鎖原因について疑問を持っていたと語っている。
心理学的には両親が離婚調停のために争い続けたり、家族のつながりが崩壊する様子を見ている子どもは「自分は同じことを再現しないようにしよう」と考え、自分が家庭を持ったときは離婚を回避しようとするという。
それでも離婚に至ってしまうのであれば、心理・環境面以外の何か、例えば世代を超えて伝わる遺伝要因が影響しているのではないか。
そう推測したサルヴァトーレ博士はVCUの遺伝学者ケネス・ケンドラー博士とルンド大学のサラ・ラーソン=ロン博士の協力を得て、スウェーデン政府が有する国民の結婚・離婚記録を網羅的に解析。
養子縁組によって養父母の元で育った養子と、実の両親のもとで育った子どもの離婚率を比較分析したのだ。
養子は養父母と遺伝的なつながりはなく、養父母が養子に「提供」するのは環境だけ。つまり、養子と一般的な子どもを比較すれば、離婚が「遺伝」するかを検討することができる。
分析の結果、やはり両親が離婚した子どもは自分自身の離婚率も上昇していたが、養父母が離婚した養子では離婚率の上昇しておらず、養父母ではなく生物学的な両親や兄弟などに離婚歴がある場合、離婚率が上昇していることが確認された。
これらの事実から、サルヴァトーレ博士は、
「離婚した両親の子どもが離婚する可能性が高い理由は、両親が離婚するのを見た経験ではなく、両親と子供が共有する遺伝子と関係があるのではないか」
とコメントしている。
カウンセリングやセラピーだけでは不十分か
サルヴァトーレ博士は、離婚問題を扱うカウンセリングやセラピーは「離婚は家族の関係性や対人スキルに問題がある」という前提でさまざまな対処法を用意しているとし、
「遺伝的な影響があるのであれば、悩んでいるカップルに必要なのはセラピストの前で語り合うことだけではないでしょう」
と指摘。より基本的な人格特性を治療するような、認知行動療法などが必要なのではないかともコメントしている。
研究では遺伝子解析などは行っておらず、「離婚遺伝子」のようなものを発見したわけではないが、遺伝的な影響を匂わせる結果であることは事実だろう。
ただし、サルヴァトーレ博士らは離婚の心理・環境面での影響を全否定しているわけではない。これらに加えて遺伝的影響がより大きく関係しているのではないかと指摘しており、「離婚した両親の子どもは遺伝によって必ず離婚する」というような話ではないことにも注意が必要だ。