地球における生命の起源は37~45億年前までさかのぼると言われているが、それがどのような場所で、どのようにして起きたのかは諸説ある。
そのひとつに、水中に存在する複数の元素から「RNA」が生み出され、さらにこのRNAが組み合わさって「DNA」が誕生し、生物へと進化していったという説が存在するが、このRNAが生み出された環境は「海」だったのか、「池」だったのか長らく議論となっていた。
生命は海から? 池から?
無生物しか存在しなかった原始の地球にどのようにして生命が誕生したのか、いわゆる「生命起源説」は現在でも確固たる答えは出ておらず、多くの研究者たちが多様な学説を唱えている。
カナダのマクマスター大学のベン・ピアース博士と独マックス・プランク研究所のドミトリー・セメノフ、トーマス・ヘニング両博士らをはじめとする共同研究チームは、地球が誕生したばかりのころは大量の隕石が地上に降り注いでいたことに注目。
隕石に「アデニン」や「シトシン」「グアニン」「チミン」といったDNAやRNAを構成する「ヌクレオチド」という物質が付着しており、これが地球に落下して水中に蓄積してRNAを生み出し、さらにDNAの誕生につながったと推測した。
生命の起源につながる物質が水中にあったという仮説は古くから存在し、「進化論」の提唱者であるダーウィンも「暖かい小さな池」という言葉で存在を示唆しているという。
問題はその暖かい水が、海底にある熱水の噴出孔のような場所だったのか、火山活動が進み熱くなっている地表にできた池だったのかという点だ。どちらも同じ水中であり、海のほうが広く大きい分、さまざまな物質が存在し、RNAの発生も容易であるように思われる。
そこで、ピアース博士らは天体物理学、地質学、化学、生物学などさまざまな領域で得られる45億年前の地球のデータを元に当時の状態をシミュレーション。隕石由来のヌクレオチドからRNAを作り出す場合、海と池のどちらが生命誕生に適していたのかを検証した。
シミュレーションから判明したのは、ヌクレオチドは湿潤状態と乾燥状態を繰り返すことで結合しRNAになるという結果だ。
つまり、水中にあり続けるのではなく、「水中で一定の濃度になる」「何らかの形で水が蒸発、排水される」というプロセスが繰り返される必要があったのだ。海底の噴出孔で水が蒸発したり排水されることは不可能であり、生命は地表にある池からでなければ誕生できなかったことになる。
降り注ぐ隕石が生命の材料
ただし、池説に欠点がないわけでもない。DNAはもちろんのことRNAも非常に複雑な存在であり、ちょっとやそっとのヌクレオチドがある程度ではとても生み出せないという問題がある。
海であればその広さから多数のヌクレオチドが存在していてもおかしくないが、池では絶対量が限定されてしまう。わずかな量のヌクレオチドからRNAが奇跡的に生み出される可能性は非常に低い。
だが、セメノフ博士はその問題も克服できると指摘している。
「原始の地球では今よりもずっと隕石が一般的でした。日々大量の隕石が地表に存在する無数の池に降り注ぎ、生命の源を運び込んでいたと考えられます。ある池でついにRNAが誕生する可能性は十分にあるのです」
今のところは理論をまとめたにすぎないが、博士らは早ければ来年にも今回の理論に基づいた実験を行い、「暖かい池」からRNAが生み出せるのかを確認する予定だ。