駆除が進んだ先進国ではほとんど見かけなくなっていた害虫「トコジラミ」が、近年再び欧米を中心に確認されるようになった。国を越えての人の行き来が盛んになったため、トコジラミが駆除できていない国から持ち込まれたためと考えられている。
その侵入経路を調査していた英シェフィールド大学のウィリアム・ヘントレー博士らの研究チームが2017年9月28日、旅行先でベッドの上に放置した洗濯物が原因となっているというユニークな調査結果を発表した。
人がいようといまいと服へ
トコジラミはその名前に反してシラミではなく、カメムシの一種で、「ナンキンムシ」の別称でも知られている。多くは野生動物に寄生して吸血するが、不衛生な住居などにも生息しており人から吸血することもある。日本でも殺虫剤による駆除が徹底された1970年代以前はよく悩まされたようだ。
しかし、近年米国や豪州、英国などで大発生する例が相次いでいる。その原因についてはトコジラミが殺虫剤への耐性を得た、現行の殺虫剤の毒性が弱まった、国外からの流入者が増えたなどさまざまな説が挙げられている。
しかし、トコジラミは動きが活発ではなく、飛び回るような羽も脚力もない。人家での生息場所もタンスやカーペットの裏、床の隙間などで、簡単に衣類や荷物などに侵入するとは考えにくい。
にもかかわらず、離れた場所にトコジラミが持ち運ばれてしまうのはなぜなのか。ヘントレー博士らは実験によって解明を試みた。
その内容はベッドルームを模した部屋にトコジラミを放ち、ベッドの上に清潔な服を入れた袋を置いた場合と、一度着た服を入れた袋を置いた場合、トコジラミの付着に差が出るかを検証するというもの。
また、人の有無が与える影響も考慮し、部屋も2種類用意。一方は人の呼吸に近い二酸化炭素濃度に、もう一方は低濃度にしてある。
実験の結果、部屋の二酸化炭素濃度に関係なく一度着た服には清潔な服の2倍のトコジラミが侵入していることが確認された。
ベッドの上以外に放置も危険
ヘントレー博士らは今回の結果から、「人の有無に関係なく、トコジラミは人の臭気を感知して行動している」と推測。旅行先でベッドの上に着替えを放置することは推奨しないとコメントしている。
また、今回の研究ではベッドの上に服を放置したが、臭気に反応しているのであれば場所はあまり関係ないとも指摘。
「開けっ放しのスーツケースの中に汚れた洗濯物を入れていたり、部屋の床に放置したりすると、トコジラミが引き寄せられる可能性があります。自宅にトコジラミを持ち帰ってしまい、感染を拡大させてしまうことを防止するため旅先では洗濯物を密封してトランクに入れて鍵をかけてください」