楽天が格安スマートフォン「フリーテル」を買収する。2017年11月をめどに、同ブランドを手がけるプラスワン・マーケティング(東京)から実質約36億円で買い取る。成長市場として新規参入者がひしめく格安スマホ業界で、初の本格的な再編。激しい販売競争を背景に、今後も合従連衡が続く可能性が高いようだ。9月26日、買収を発表した。
格安スマホ業界の正式なランキングはないが、契約数を公表していないソフトバンク系の「ワイモバイル」がトップとされる。2位以下は、MM総研(東京)の調査結果が明らかにされていて、3月末時点で、NTTコミュニケーションズ系の「OCNモバイルワン」が138万件で2位。以下、インターネットイニシアティブ(IIJ)120.8万件、楽天モバイル78万件、関西電力系のケイ・オプティコム60.2万件、フリーテル43.3万件、KDDI系のビッグローブ40.2万件――となっている。4位の楽天モバイルが6位のフリーテルと統合すると、121.3万件となり、僅差でIIJを抜いて3位に躍り出る。
格安スマホ界でも異端児だった
プラスワンは格安スマホ界でも異端児だった。2012年設立、13年11月に格安スマホに参入したが、「スマホで出荷台数世界一を目指す」と増田薫社長がメディアで語り続けてきたように、端末製造を自ら手掛け、通信サービスまで一気通貫の垂直統合型ビジネスモデル。この自社開発端末の投入と、派手なテレビでCMを流すという積極的な営業で注目されてきた。
だが、端末では、パナソニック、NEC、シャープといった世界に知れた一流メーカーも世界市場では相次いで「討ち死に」したように、生き残りは簡単な話ではない。
そもそも、格安スマホの収益構造は極めて脆弱だ。NTT、KDDI、ソフトバンクという大手携帯電話事業者(キャリア)から回線を借り、キャリアよりも安い通信料金でサービスを提供するというもので、いわば「薄利多売」。年々下がってきた大手キャリアに支払う使用料も、ここ4、5年は下げ止まり。一方で、「格安」というように、通信料収入は大手キャリアのせいぜい半分程度とあって、格安スマホ事業者は収入の半分以上を大手キャリアに持っていかれる構造になっている。さして儲かる商売ではないわけだ。
実際に、主な事業者を見てみると、格安スマホは「副業」の事業者ばかりだ。OCNモバイルワンやIIJは法人向けや回線販売などが事業の中心で、格安スマホは本業を補足するアイテム。楽天はインターネット通販、イオンモバイルもショッピングモールがあり、その顧客との接点としての格安スマホ事業という位置づけになる。
携帯電話の製造販売は買収対象外
さらに、ここにきての大手の「逆襲」も本格化。ソフトバンクのワイモバイルのほか、KDDIはビッグローブに加えてUQモバイルも投入して攻勢をかけている。このため、足元では、これら大手系のサブブランドが格安スマホの新規契約の半分を占めるとされる。
こうした中で、フリーテルのような専業に近い業者が厳しい状況に陥るのは不思議ではない。フリーテルは新規顧客数の伸び悩みや資金繰りの悪化がうわさされていた。
今回、楽天の買収額は36億円とされるが、引き継ぐ負債なども含めての額で、直接の買収金額は5億2000万円にとどまる。なお、プラスワンが手掛けるスマホなど携帯電話の製造販売は買収対象外で、同社は端末の設計・製造に特化するという。
楽天は今回の買収で顧客基盤を拡大する。大きくなれば、事業運営コストは低減し、また、端末の調達規模も大きくなるので、より安く調達できるようになる。フリーテルのような専業の置かれた厳しさを考えれば、今後も、生き残りをかけた消耗戦は続き、一段の業界再編も必至だろう。
大手の攻勢に押されるばかりなのか、格安事業者がある程度集約されて大手の対抗軸になるのか、大きな分かれ道にきている。