東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の売却先が2017年9月28日、米ファンドのベインキャピタルが主導する「日米韓連合」に決まった。「四転五転」(銀行幹部)の末の7か月がかりで決着したわけだが、早くも連合内の足並みの乱れが露呈している。
象徴は、東芝が契約締結を発表した28日、夕方から予定されていたベインキャピタルの記者会見がキャンセルされたこと。ベインの記者会見には多数の報道陣が詰めかけたが、開始時間を10分程度過ぎてから、「トラブルがあった」として、急遽中止になった。10月5日になって、ベインはようやく会見を開いた。
国際仲裁裁判所の訴訟の扱いがネックに
渋い表情で会場に現れたベインキャピタル日本代表の杉本勇次氏は、「時間も限られていたこともあり、まずは会見を設定してその間に(連合内の)合意をいただこうと思っていたが、いただけなかった」と釈明。報道陣には当初、「またトラブルか」と失笑も漏れていたが、最後には「ストップをかけたのは東芝なのか」「こんなことで本当に契約に至ったのか」と詰め寄る場面もみられた。
東芝と契約した同連合の買収案は、ベインキャピタルが2120億円、韓国の半導体大手SKハイニックスが3950億円、アップルなど米企業4社が4155億円、東芝が3505億円、光学機器大手HOYAが270億円を出資するほか、銀行団の融資6000億円と合わせて買収資金2兆円を拠出、パンゲアを通じて東芝メモリを買収するスキームだ。当初から「船頭が多いことが混乱要因になるのではないか」との懸念が現実化したとも言える。
東芝メモリの売却手続きをめぐっては、これまでも迷走続きだった。6月下旬に日米韓連合を優先交渉先に決めたかと思えば、8月には協業先で米国の半導体大手ウエスタン・デジタル(WD)陣営との交渉を加速させ、9月には一転して日米韓連合に決定した。迷走したのは、WDが売却手続きの停止を求めて国際仲裁裁判所に起こしている訴訟の扱いがネックとなったからだ。
「まだもめる」「生煮え」指摘も
万一、WDの申し立てが認められれば、東芝メモリの売却手続きを白紙に戻さなければならない。そのリスクを誰が負うのかをめぐり各陣営との交渉は難航。最後は、訴訟にかかる費用の一定分を担うとしたベイン主導の日米韓連合との契約で決着したが、訴訟の扱いは詰まっていないようだ。「取引銀行に急かされて、契約を急ぐあまり生煮えの部分も多い」(政府関係者)といい、関係者には「売却完了までにはまだもめる局面があるのではないか」とも懸念されている。
WDが起こした国際仲裁裁判所の審議は10月初旬にも始まる。仲裁裁の結果が出るまで2年程度かかるため、それまでの売却完了を避けようと、WDは審議開始後すぐ、結果が出るまでの手続きの一時中止を申し立てることになりそうだ。日本の裁判でいう仮処分申請のようなもので、この結論は申し立て後3か月程度で出るという。つまり、2018年1月ごろに出る結論で東芝に不利な決定が出れば、売却はストップしなければならない。
ようやく日米韓連合と契約にこぎつけた東芝だが、なお先行きの雲は晴れない状況だ。