ツイッターで、子どもが水に溺れる危険性を注意喚起した1枚のイラストが話題だ。助けを求めて子どもが暴れたり、騒いだりすると考えがちだが、実際は逆で「子どもが溺れる時は静かです」という。実際にこうした体験をした、聞いたことがあるというツイートが多く寄せられた。
イラストを掲載したのは、長野県の佐久総合病院小児科が中心となって制作・運営するウェブサイト「教えて!ドクター」だ。同サイトにかかわる佐久総合病院小児科の医師、坂本昌彦氏にJ-CASTヘルスケアが取材した。
水深30センチでも、どうすることもできない
「教えて!ドクター」にイラストが載ったのは、2017年9月28日。子どもが溺れた場合の「想像」と「実際」の違いが明確に描かれている。投稿記事には「溺れた状況を理解できず、もしくは呼吸に精一杯で声を出す余裕もなく、静かに沈みます(本能的溺水反応といいます)」という補足説明が付いている。
坂本医師に話を聞くと、米国の小児科医、ウェンディ・スー・スワンソン氏の著作「ママドクターからの幸せカルテ」に「子どもは静かに早く溺れる」、それを「本能的溺水反応」を呼ぶとあり、自身の経験と照らし合わせても全くその通りだったので、サイトで紹介したと明かした。「私は溺水の専門家ではありません」とのことだが、自身の知識や調べた事実を基に取材に答えてくれた。
本能的溺水反応は、実は「子どもだけに当てはまる現象ではなく、大人でも同じ」だという。ただ子どもは何が起きているかが分からず、沈む速度も速いので「静かに早く溺れる」ようだ。本能的溺水反応のひとつが、「呼吸をするのに精いっぱいで声を出せない」現象。真に溺れる時は、声は出せない。「それは水深の浅い場所でも当てはまると言っていいかと思います」と、坂本医師は警鐘を鳴らした。
こうした背筋の凍る体験をした母親を、J-CASTヘルスケアは取材した。東京都在住の30代女性は、息子が間もなく3歳になるある日、一緒に入浴していた。湯船には30センチほどしか湯をためていなかったが、一瞬目を離したときに息子が浴槽で足を滑らせ、「ドボンとひっくり返りました」。わずか2~3秒の出来事だったが、息子は助けを求める声を一切出さず、「手足をピンと伸ばしたまま、目を見開いてどうすることもできない感じでした」と振り返る。
水遊びしているはずが「静か」になったら要注意
別の30代女性は、娘が1~2歳の頃、入浴中に「教えて!ドクター」のイラストと同様の状態になったと話す。ほんの1秒程度だったが、「目を見開いて沈んでいく感じ。今でもぞっとします」という。当時は東日本大震災の直後で、緊急時に備えて浴槽に水をためるよう推奨されていたが、子どもが浴室に入り込み、浴槽に落ちて溺れる可能性を聞いていたため「子どもが小さいときは、お風呂が終わったら必ずお湯は抜いていました」。
2人の母親のケースではいずれも、ごくわずかな時間で子を助け出し、大事には至らなかった。坂本医師は、「水中での時間が5分を超えると、脳に後遺症を残す可能性が高くなるといわれています」として、溺れた場合の正しい処置を紹介した。引き上げた後に(1)平らな場所に寝かせて、(2)意識があるかを確認し、(3)意識がなければ人を呼んだうえで(救急車連絡なども)、(4)絶え間なく心臓マッサージと人工呼吸を行う、との手順だ。なお溺水の場合、固形物を飲みこんだ際の救急処置である「ハイムリック法」(患者の背中側から抱きかかえ、両腕でお腹に手をまわして圧迫する)は、かえって誤嚥を誘発するため危険だと指摘した。
入浴時以外にもプール遊びや海水浴と、子どもが水に触れる機会は多い。坂本医師が注意を促すのが、乳児用浮き輪の使用だ。「親が目を離したすきに浮輪の不具合で溺水してしまう事故がいくつか起きています」として、小児科医としては勧めないとした。
最後に、「『本能的溺水反応』は小さな乳幼児だけに当てはまるものではありません」と再度、強調した。小中学生でも、大人ですらその危険はある。そこで、子どもが元気に水遊びをしている最中は音が出ているはずで、静かになっていたら「何かが起きているかもしれない」と用心するとよいとアドバイスした。