キリンホールディングス(HD)の株価が上昇気流に乗り、足元で30年ぶりの高値圏にある。赤字を垂れ流していたお荷物子会社「ブラジルキリン」を売却したうえ、コスト削減も進んで筋肉質になったところで、投資家が一段の成長を期待しているようだ。
キリンHDの株価は2017年9月26日に一時、年初来高値の2685円をつけ、終値ベースでも27日まで8営業日連続で上昇。27日の終値は前日比10円高の2658円。年初(1月4日終値)と比べると35%の上昇だ。28日からは一服しているが、25日以降の株価は30年ぶりの高値圏で推移している。
ブラジルキリンをハイネケンに売却
年初からほぼ右肩上がりで株価が上昇している背景には、ブラジルのビール・飲料事業子会社ブラジルキリンをハイネケン(オランダ)に770億円で売却すると2月13日に発表したことがある。赤字子会社に見切りをつける「損切り」が歓迎されたわけだ。
約2億人の人口を抱え、ビール市場が拡大しているブラジルは自社としても成長が見込めると踏んでキリンHDは2011年、当時ブラジル2位だったスキンカリオールを約3000億円かけて買収した。南米に足場をつくる狙いもあった。しかしこれは良い買い物ではなかった。キリンはこれまでもオーストラリアでビール会社を買収したものの成熟市場ゆえ業績が低迷しているが、ブラジルのケースは明らかな失敗だった。スキンカリオールは創業家の孫2人がそれぞれ経営する2社が株式を保有。キリンHDは50%超を保有する方の会社の持つ全株式を取得して子会社化したわけだが、もう1社から因縁をつけられ泥沼の訴訟沙汰になった。
ガバナンスに難がある会社は業績も向上しないものだ。ブラジルキリンは2015年12月期以降、営業赤字が続く。ブラジルキリンの減損損失計上でキリンHD自体も2015年12月期に上場以来初の最終赤字(473億円)に転落した。ブラジルでは世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブが6割超のシェアを持って圧倒する中、キリンHDは「もはやこれまで」と買収から6年でブラジルから撤退。独占禁止法当局の承認を得て17年5月末にハイネケンへの株式売却を完了した。随分と高い授業料を払ったわけだが、売却損が税務上の損金として扱われることでキリンHDの純利益は200億円程度押し上げられることになった。ブラジルキリンの営業赤字もキリンHDの決算の外になる。
アジア・オセアニアでの展開に注力する海外事業は強化する方針
こうした負の遺産の処理に加え、国内不動産の売却益やコスト削減もあってキリンHDは2017年12月期の業績予想を段階的に上方修正。最新の8月3日(17年6月中間決算発表時)の予想では経常利益は10.9%増の1560億円と過去最高を見込む。営業利益は7.1%増の1520億円。純利益は3.5%減の1140億円とするが、従来予想を20億円上回る。
キリンHDは縮む国内ビール類市場で過度なシェア争いを避けたい考えで、販促費の投入を抑制し、利益の出る体質を目指す。半面、ブラジルでは失敗したものの、アジア・オセアニアでの展開に注力する海外事業は強化する方針。2015年にミャンマーのビール最大手を約700億円かけて子会社化したのに続き、次なる大型買収に向けて負債の圧縮を急ぐ。新たな買収対象としてベトナムの国営ビール会社などが視野に入っている模様だ。香港やシンガポールには日本でも人気の缶チューハイを輸出しており、こうした分野の事業展開も拡大したい考えだ。
ブラジルでの失敗は損切りして果敢に次に進む。そんなチャレンジ精神が投資家の好感を得ているようだ。