サッカー元日本代表の松田直樹さんをはじめ、同じくサッカーのカメルーンのフォエ選手、スペインのプエルタ選手...とプレー中に倒れて命を落とすアスリートは多い。限界の中で競技するスポーツは事故と隣り合わせだが、周囲が適切な救命処置を行なっていれば助けられたのではないか――。
イスラエル・テルアビブ大学の研究チームは、スポーツ中の心肺停止の動画を集めて救命活動を分析した結果、初動の段階で65%が間違った方法を行なっており、助かる命を助けられていないことが明らかになった
救命処置をされないままコートで死んだバスケ選手
この研究は、心臓病専門誌「Heart Rhythm」(電子版)の2017年9月19日号に発表された。論文では冒頭に、1990年に起きた全米大学バスケット選手権(NSAA)の悲劇の動画を紹介している。NBA(全米プロバスケ)から誘いが来ていた大学生フランク・ギャザーズ選手がダンクシュートの直後に倒れた。チーム仲間や観客は何が起こったか分からず、ギャザーズ選手は何の救命処置をされないまま2分間もコート上に放置され、心臓麻痺で死亡した。この動画はYoutubeにアップされ、約300万人が視聴した。研究チームはこの事件の反省から調査を始めたのだ。
研究チームは、試合中の発作事故に対する心肺蘇生の実態を調べるため、テレビやYoutubeの映像の中から事故の一部始終が映っている物を選んだ。具体的には次の条件を満たしている物だ。
(1)発作を起こした選手のデータ(病状経過や生死)が得られる。
(2)事故の場所と時間がわかる。
(3)試合中に意識を失ってから処置がすむまでの映像が残っている。
この結果、条件を満たす映像が28人分(男性27人・女性1人)集まった。そのうち24人がサッカー選手だった。死亡したのが13人、生存者が15人。また28人中、心停止と判明したのは22人(79%)で、そのうち生存者は8人(36%)だった。心停止の場合、周囲に人が多くいても生存率が非常に低いことがわかる。それだけに早い適切な処置が重要だ。
そして、それぞれの映像について、発作を起こした直後の周囲の選手の行動、救護班の到着時間、最初に行なった救命処置の内容、胸骨圧迫(心臓マッサージ)の開始時間、AED(除細動器)の使用の有無と開始時間などを調べた。つまり、素早く適切な救命活動を行なったかどうか検証したわけだ。中でも特に研究チームが注意を払ったのが最初にとった救命処置の内容だった。