17歳の少年の右眼球内に「吸虫」と呼ばれる寄生虫が侵入し、失明することになったという恐ろしい症例報告が、2017年9月21日に医学誌「New England Journal of Medicine」で発表された。
資料として公開された動画や写真では、眼球の中を泳ぐように動き回る吸虫の姿がはっきりと捉えられており、目の表面に乗っかっているような状態ではない。
診察に当たった医師らは「これまで見てきた中でも初めての症例だ」と困惑した様子のコメントを出している。
どうやって眼球に入り込んだのかは不明
報告によると患者はメキシコの田舎に住む少年で、病院を受診する1か月ほど前から右目に痛みを感じ、急激な視力低下を起こしていた。
9月20日付の米科学メディア「Live Science」の記事で取材に答えた筆頭著者の眼科医パブロ・グズマン・サラス医師は、「診察時には少年の右目は30センチほど離した自分の指すら見えない状態で、腕を振るとかろうじて何かが動いていると感知できる状態」だったと答えている。
左目には何の異常もなく、右目特有の問題があると考えた医師らが詳しく調査すると、恐ろしい事実が明らかになった。
まず、角膜は腫れ上がり内出血を起こして斑になっており、虹彩には複数の小さな穴が開いていた。さらに光を当ててみると、眼球の中を3ミリほどの虫が動き回っていたのだ。
この虫によって眼球が破壊されていると考えた医師らは水晶体を一度取り外し、眼球内の硝子体液も抜くという手術を実施。何とか虫を除去したが、少年の網膜も破壊されていることもわかった。
手術から6か月が経過したが、少年の視力は回復しなかったという。
虫を詳しく調べた結果、魚類や甲殻類、淡水中に存在する寄生虫「吸虫」であることが確認された。基本的に吸虫に寄生されるのは、卵や吸虫が存在する食品を口にしたり、水を飲んでしまった場合で、寄生部位も肺や腸、肝臓など内蔵が一般的だ。しかし、検査の結果少年の体内から吸虫や卵は出てこなかった。
かつては日本の限られた地域でのみ発生し、地方病として恐れられていた「日本住血吸虫症」の原因となる日本住血吸虫は水中に存在し、水に触れた皮膚から体内に侵入する。サラス医師も少年が湖や川で泳いだ際に眼球から侵入した可能性も考慮したが、少年は泳いだことがないと答えており、寄生経路は不明なままだ。
詳しく吸虫の種類を分析すれば何かがわかったかもしれないが、少年の目から摘出する際に細かく切断しなければならず、特定できなかった。
野生動物には不用意に触れないように
目に寄生虫が侵入するという報告はわずかだが確認されている。例えば、2017年2月にはやはり「New England Journal of Medicine」に「メマトイ」というショウジョウバエの幼虫が侵入、まぶたの裏に寄生する「東洋眼虫」という症例が報告された。ただ、これは本来イヌやネコの病気であることがわかっており、感染経路も予防接種を受けていないイヌだという。
サラス医師によると確認した限り人の小腸に寄生する「回虫」が目に達した症例はあるが、吸虫が眼球に寄生した例はないようだ。
今回の症例を報じた米CBSニュースの報道番組の中で米国の眼科医は、「吸虫が魚類や水だけでなく、陸上生物に寄生している可能性もある」とコメント。次のようにアドバイスしていた。
「イヌやアライグマ、スカンクなどもカニやカエル、魚のように吸虫を運ぶ可能性がある。何らかの形で卵が目に付着、皮膚から成虫が侵入する経路も否定できない。不用意に屋外で野生動物に触れるべきではないだろう」