発電器官を備え強力な電気を起こすことができる魚「デンキウナギ」は、水中だけでなく水上でも生物に対してショックを与えることができるのか――。
この疑問を解明するために、生物学者のケネス・カターニア氏が行った調査結果が、生物学分野の学術誌「Current Biology」2017年9月25日号で発表された。
研究内容もユニークだが、さらに驚愕なのはその調査方法だ。なんとデンキウナギの入った水槽に自らの腕を入れ、どの程度の電流が腕を通るのか計測したという。
水上の馬を一撃で倒すほどの威力?
カターニア氏は米ヴァンダービルト大学の生物科学教授で、これまでにモグラが左右の鼻孔で独立して臭いを感じ立体的に捉えていることを解明するなど、生物のユニークなメカニズムを研究してきた。
以前からデンキウナギの研究にも取り組んでおり、2014年にはその放電の仕組みを解明。スタンガンのように高電圧のパルスを体表で発生させて餌にする生物に急激な筋収縮を引き起こし、麻痺させて捕食していることを確認している。
2017年9月14日に発表されたヴァンダービルト大学のプレスリリースの中でカターニア氏は、網ですくい上げようとしたデンキウナギが水上に頭を突き出して激しく振っている様子を目撃したと説明。「水上でも強力な電気ショックを与え、捕食者などから身を守っているのではないか」と考えたという。
実際、デンキウナギの電気ショックは水中よりも水上のほうが強力であるとする説は古くから唱えられている。
ただし、その記録は200年以上前にベネズエラを調査したドイツの探検家フンボルトが「水辺にいた野生の馬に水中からデンキウナギが飛び出して一撃で倒した」と報告した一例のみで、単なる伝説にすぎないとする声もあった。
「デンキウナギは本質的に水に浸されたバッテリーです。そのバッテリーが水上ではどれほど強力なのか、内部抵抗はどのくらいなのか、どの程度水の抵抗の影響を受けているのか。これらを解明するためには私の腕が必要でした」
測定方法は極めてシンプルだ。まず、水に浸した銅線と測定器をつないだ装置の中に手を入れて、銅線を握る。その腕をデンキウナギがいる水槽に入れ、ウナギを刺激。上腕をウナギが電気で「攻撃」するように仕向けるというものだ。
10回ほどの実験を行った結果、約40~50ミリアンペアの電流が腕に流されていることが測定できた。
成長した個体ならテーザー9台分
40~50ミリアンペアという電流自体は、それほど大きな威力には思えないかもしれない。しかし、国際電気標準会議が公表している感電時の人の反応を示した「人体反応曲線図」では50ミリアンペアの電流が3秒、50ミリアンペア以上なら1秒で心室細動が生じて死亡する恐れがあるとされている。
カターニア氏がユーチューブ上で公開している実験映像でも、デンキウナギが触れた瞬間に腕を引き上げており、「痛みを感じてから4~5テンポ遅れて腕を反射的に出してしまった」とコメントしていた。思わず逃げてしまうほどの痛みは感じるのだ。捕食者に対してもかなりのショックを与えているのではないだろうか。
今回の調査では全長40センチほどの比較的若い個体で調査を行っているが、成長しきった個体は2~3メートルに達し、与える電気ショックも一桁変わると考えられるという。
ヴァンダービルト大学のプレスリリースではこう説明されていた。
「若いデンキウナギの個体から受ける電気は、牧場で偶然家畜用の電気柵に触れた程度ですが、成長した個体であればテーザー銃(肌に電線を刺すスタンガン)9台に撃たれた衝撃に達するでしょう」
南米を訪れる際は、デンキウナギを怒らせるような真似だけはしないほうが良さそうだ。