大腸がんは年々増え続けており、2015年には肺がんを抜いて日本人のがんの死亡率のトップに躍り出た(国立がん研究センター調べ)。
その大腸がんを防ぐには紫ジャガイモなど紫色の野菜を食べると効果が期待できるという研究を米ペンシルベニア州立大学のチームがまとめ、栄養生化学専門誌「Nutritional Biochemistry Journal」(電子版)の2017年9月20日号に発表した。
人間と消化器が似た豚のがん発症物質が6分の1に
紫色をした野菜や果物、たとえば、紫ジャガイモや紫タマネギ、紫キャベツ、ナス、黒豆、ブルーベリー、ブドウなどにはアントシアニンというポリフェノール(植物由来の抗酸化物質)が、他の色の野菜や果物より豊富に含まれている。
アントシアニンは、ギリシャ語の「antos」(花)と「cyanos」(青)が語源の紫の色素だ。アントシアニンは紫外線のダメージから細胞を守る働きが非常に強い。また、目の健康にもいい効果があることが知られている。網膜の細胞の合成を促し白内障を予防、目の疲れや視界のぼやけの改善に役立つ。また、マウスを使った実験では、内臓脂肪の蓄積を抑制する効果が認められている。
さて、米ペンシルベニア州立大学のプレスリリースによると、食品科学専攻のジェイラム・バナマラ准教授らは、紫ジャガイモの大腸がん抑制効果を調べるため、豚に3種類のエサを食べさせて、効果を比較した。
(1)脂肪分5%を含む通常のエサ。
(2)脂肪分20%の高カロリーのエサ。
(3)紫ジャガイモをタップリ含んだ高カロリーのエサ。
その後、それぞれの豚の結腸粘膜にある「インターロイキン-6」(IL-6)というタンパク質の量を調べると、(3)の紫ジャガイモをタップリ食べた豚は、ほかのエサを食べた豚よりIL-6の量が6分の1に減っていた。最近の研究では、IL-6の量の上昇が、腸に炎症を引き起こし、大腸がんを発症させる重要な因子であることがわかっている。IL-6の量が大幅に減ったということは、それだけ大腸がんのリスクを減少させたことになる。
念のため、バナマラ准教授は紫ジャガイモを未調理(生)のままと、焼いた状態でそれぞれ豚に食べさせると、同様の効果があった。紫ジャガイモに含まれる成分に大腸がんの発がん成分「IL-6」を減らす効果があることが確かめられた。豚はマウスとは違って、人間への臓器移植手術に使われるほど、臓器の構造が似通っている。だから、豚に効果があるということは、人間にも効果が期待できる可能性があるわけだ。
紫色野菜の食事療法で世界の農業を救う
バナマラ准教授はプレスリリースの中でこう語っている。
「紫ジャガイモのアントシアニンなどのポリフェノールの中に、大腸がん予防に関係する抗炎症抗酸化化合物が含まれているのです。今後は、その化合物が分子レベルでどう働いているかを突きとめたいです。白いジャガイモにも有用な化合物はありますが、紫色の方が化合物の濃度がはるかに高いのです。また、他のカラフルな野菜や果物、たとえば紫タマネギ、紫キャベツ、ブルーベリーなどを食べても同様の効果が期待できるでしょう。他にどんな植物が利用できるか、研究を進めます」
現在、「IL-6」を抑制する薬が関節リウマチなどに使われている。大腸がんの治療薬としても開発が進められているが、非常に高価なうえ、副作用が心配されている。バナマラ准教授はこう語る。
「豚の消化器は人間にとてもよく似ています。紫色の野菜の食事療法に効果が期待できるとしたら患者のためになるばかりか、農業に大きな利益をもたらすことでしょう。世界中の小規模農家を救うことができるかもしれません」