米国立衛生研究所(NIH)は2017年9月20日、同研究所とハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、仏製薬企業サノフィらが共同研究に取り組んできた新しいHIV抗体の開発に成功したと発表した。
サルを使った試験では開発された抗体がHIVの駆除、感染予防効果を発揮することが確認されており、国際エイズ学会(IAS)は公式サイトで「エイズ治療にエキサイティングなブレイクスルーが起きた」と声明を公表している。
一体、どのような抗体を開発したのだろうか。
抗体を組み合わせて効果を高める
HIVは「ヒト免疫不全ウイルス」と言う名前の通り、「エイズ(後天性免疫不全症候群)」の原因となるウイルスだ。
HIV検査のひとつである「HIV抗体検査」は血中の「抗体」の有無でHIV感染を判定しているが、これはHIVに感染すると体内で侵入してきたウイルスに対抗するために抗体が作られるからだ。
抗体は人がもともと持っている防御機能であり、利用すればHIVを攻撃し感染予防や駆除ができる治療薬が開発できる可能性がある。そのため、以前からさまざまな機関で研究開発が進められてきた。
しかし、問題も存在し開発は難航していた。HIVはインフルエンザのように複雑な遺伝的多様性を持ち、200種類以上の株が存在するウイルスであるという点だ。
通常の抗体ではわずかな株にしか対応できず、仮に効果のある抗体が発見されても、ある株には効くが別の株には効かないという状態になってしまう恐れがある。
研究チームはHIVに感染してもエイズを発症しなかったり、ウイルスが増殖しなかった人たちの抗体を調査。複数の異なるHIV株を認識できる「二重特異性抗体」「三重特異性抗体」と呼ばれる特別な抗体を持っていることを確認した。
こうして発見された抗体から特に高い効果を発揮しつつ、幅広いHIV株をカバーできる組み合わせの探索を続け、「VRC01」「PGDM1400」「10E8v4」という3つの抗体の組み合わせが最も効果的であることを発見。
サノフィ社の持つ独自の遺伝子組換え技術によって3抗体の機能を損なわせずに結合させた、まったく新しい抗体の開発に成功したという。
24匹のサルをVRC01のみを投与するグループ、PGDM1400のみを投与するグループ、新抗体を投与するグループに分類しHIVに感染させた実験では、新抗体のグループのみ感染せずHIVが完全に駆除されていることも確認された。検証の結果、99%のHIV株をカバーできることもわかっているという。
他の感染症やがんにも技術応用が可能
サノフィ社のリリースによると、新抗体は米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の協力を得て製造体制に入っており、早ければ2018年には人を対象とした臨床試験を開始する予定だ。まずはHIVに感染している人を対象に抗体の効果を検証し、さらに健康な人を対象に抗体の予防効果も検証するという。
今回の研究で確立された抗体を組み合わせる手法はHIVだけでなく、他の感染症や自己免疫疾患、がんなどにも有用となる可能性がある。
サノフィ社は「我々は1企業が重大な公衆衛生上の脅威を克服することはできないことを理解しており、公的もしくは民間研究機関と全面的に協力し、感染症やがん治療へも貢献する用意がある」と技術協力の用意があることを明らかにしている。