高齢者の健康、なかでも脳の活性化に最もいいスポーツはなんだろうか。それはダンスであるという研究を独オットー・フォン・ゲリク大学のチームがまとめ、神経科学専門誌「frontiers Human Neuroscience」(電子版)の2017年6月15日号に発表した。
ウォーキングやエアロバイクの運動よりも脳で記憶・学習をつかさどる海馬組織が活発になり、バランス感覚が向上した。音楽のリズムに乗ってカラダを動かすことがいいようだ。
音楽に乗って体を動かし、バランス感覚が向上
海馬は、脳の中心部分に左右1対ある器官。断面の形が、ギリシャ神話に登場する半馬半魚の動物の尾に似ていることから名づけられた。記憶や学習をつかさどる重要な器官で、50歳をすぎると健康な人でも年に平均1%ずつ縮んでいく。認知症になると海馬が大きく萎縮することが知られており、いかにして海馬の縮小を抑え活動を活発にするかが、高齢者の健康維持に大切だ。
同誌の論文によると、研究チームは63~80歳の健康な男女52人(平均年齢68歳)を次の2つのグループに分け、専門のインストラクターの指導のもとで1年半(18か月)にわたり、トレーニングをしてもらった。
(1)ダンスグループ(26人):ダンスの基本である重心移動や回転、ステップ、片足立ちなどを教わった後、バレエ、チャチャチャ、マンボ、ジャズダンスなど様々なダンスを楽しみ、振り付けの練習もする。
(2)フィットネスグループ(26人):持久力や柔軟性をつける運動が中心。ウォームアップとクールダウンのエクササイズや、エアロバイクとノルディックウォーキングによる持久力トレーニングを行なう。ノルディックウォーキングは、スキーのスティックのような杖を突きながら速足で歩き、普通のウォーキングの2倍ほどのエネルギーを使う。
それぞれのトレーニングは、最初の半年が週に2回90分間ずつ。後半の1年が週に1回90分だった。途中で脱落者が出て、1年半後にトレーニングを完了したのはダンスグループが14人、フィットネスグループが12人だった。そして、トレーニングの開始時と終了後に脳の構造がわかるMRI(磁気共鳴画像)で海馬の大きさを測り、平行感覚(バランス感覚)などを調べる運動テストを行なった。