子育てでよく話題に上がるテーマのひとつが、「褒める」だろう。褒めるべきか怒るべきか、どう褒めるべきなのか、さまざまな意見が存在する。
米カリフォルニア大学サンディエゴ校とカナダのトロント大学、中国杭州師範大学の研究者らは2017年9月12日、子どもを「賢い」と褒めると不正行為を働きやすくなる可能性があるという驚きの研究結果を発表した。
実験では不正行為を働く率が3~5倍も高く
子どもの褒め方についての研究は以前から盛んに行われている。有名なのは米スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドウェック博士が2007年に発表した「子どもの努力ではなく持って生まれた才能を褒めると、学習意欲が低下する」とする研究結果で、米国の教育界に大きな影響を与えた。
米科学的心理学会(APS)の学会誌「Psychological Science」で発表された今回の研究で、筆頭著者を務めるカリフォルニア大学のゲイル・ヘイマン教授は、同大のプレスリリースの中で、「ドウェック博士の知見に基づき、褒め方の影響をより詳細に分析しようと考えた」とコメントし、次のように述べている。
「褒め言葉には非常に大きな影響力があります。子どもたちに『賢い』と伝えることは一般的ですが、それが学習への姿勢やモチベーションだけでなく道徳的な面にも及ぶ可能性があるのではないかと推測したのです」
研究では中国東部在住の3歳児150人、5歳児150人を無作為に2グループに分類。数字カードの並びから伏せられたカードの数を当てる推理ゲームをしてもらい、一方のグループは当てた際に「賢い行動だったよ」「うまくやったね」と称賛し、もう一方は当てても特に褒めないという比較実験を行った。
この実験中に研究者らは1分間ほど実験室を離れ、その間に両グループの子どもがどのような行動を取るのか、隠しカメラで観察している。
すると、称賛されたグループの中でも「賢い」と言われた子どもたちだけ、伏せられたカードを盗み見する不正行為を働く率が他の子どもに比べ3~5倍高くなっていたのだ。この傾向は年齢や性別に関係なく、賢いと褒められた子どもにだけ顕著だったという。
直接褒めた場合だけでなく、子どもが誰かに賢いと褒められていたと伝えた場合でも同様の傾向が見られた。
「行動」ではなく「能力」を褒めた結果
なぜ「賢い」と褒めると、子どもの不正行為の原因となってしまうのか。ヘイマン教授はプレスリリースの中で、「賢いという能力への賞賛が圧力となっている」と指摘する。
「いいことをした場合に『素晴らしい』とその行為を褒めるのとは異なり、『賢い』というのは自身の能力への評価であることを子どもは理解しています。自分の能力だけでは達成できない問題に直面したときでも他人の期待に答え、『賢い』と評価してもらう必要があると考え、不正行為を行うようになってしまうのです」
では、どうするのが良い褒め方なのか。共同研究者のひとり、トロント大学のカン・リー教授は「学ぶことの重要性を示す言葉をかける」ことを推奨している。
つまり、子どもが自分の努力で新たな発見をした場合に「素晴らしいことをしたね」と声をかけたり、困難な課題に直面しても取り組もうとしているときに励ますことが良い。