自動車と歩行者の衝突死亡事故の一部は「前照灯上向き点灯(ハイビーム)で衝突回避できた可能性が高い」とする分析を警察庁が発表し、賛否が広がっている。
ハイビームを積極的に使用するドライバーは多くないようで、インターネット上では「眩しいんだよ」「逆効果だと思う」と疑問が出ている。ただ、モータージャーナリストの鈴木健一氏はJ-CASTニュースの取材に、「『夜間はハイビーム』という原則の啓発をしようとしているのではないか」と話す。
「126件(約56%)の事故は衝突回避できた可能性が高い」
警察庁は2017年9月14日、「2017年上半期の交通死亡事故の特徴等について」との資料を発表した。注目されているのは以下の分析だ。
「『自動車対歩行者』死亡事故(夜間・自動車直進中)において一定の条件下で発生した事故(編注:225件)は、前照灯上向き点灯(ハイビーム)を使用していれば126件(約56%)の事故は衝突回避できた可能性が高い」
そのため「自動車運転者に対して前照灯上向き点灯の使用を励行」との対策を示した。ハイビームのほうが遠くまで照らせるため、歩行者や自転車を早く発見でき、衝突回避につながるというわけだ。
この分析結果を「事故を防ぐために常時ハイビームで走行せよ」と受け取ったユーザーは少なくなく、ネット掲示板ではこんな疑問が多数出た。
「ハイビームとか眩しいんだよ」
「対向車が事故りそうだし 喧嘩売ってると勘違いされて揉め事に巻き込まれるから嫌だ」
「ハイビームにすることで喧嘩になる確率が70%増える」
「対向車がハイビームで煽ってくる」
ただ、夜間の走行は「原則ハイビーム」ということになっている。
ハイビームは「通常の走行を想定したライトと考えてよいでしょう」
一般社団法人・日本自動車連盟(JAF)のサイトでは、道路交通法52条2項を根拠に、「対向車や前走車が存在する場合には、ロービームを使用することとされています」とする。一方で「ハイビームにはロービームのような状況を限定した使用規定は存在しませんが、その照射範囲の広さや走行用前照灯という名称等からも通常の走行を想定したライトと考えてよいでしょう」との説明がある。
「走行用前照灯」とは、道路運送車両法などで使われる用語でハイビームのことを指し、100メートル以上先まで照らせるものと定めがある。ロービームは「すれ違い用前照灯」といい、40メートル以上先まで照らせるものとしている。
教習や免許更新時の指導の指針となる「交通の方法に関する教則」も、3月12日の改正で
「前照灯は、交通量の多い市街地などを通行しているときを除き、上向きにして、歩行者などを少しでも早く発見するようにしましょう」
と、改正前にはなかったハイビーム(上向き)の推奨が明記された。その上で例外として
「対向車と行き違うときや、ほかの車の直後を通行しているときは、前照灯を減光するか、下向きに切り替えなければなりません」
としている。
警察庁のデータは「夜間はハイビームという原則の啓発になり得る」
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員のモータージャーナリスト・鈴木健一氏は、J-CASTニュースの取材に「警察庁のデータは、夜間はハイビームという原則の啓発をしようとしているのではないか」と分析した。
警察庁の資料で「56%回避できた可能性がある」としたデータには、「一定の条件下で」という文言がある。この「一定の条件」は、「直進中」「一般道」「非市街地」など限定的な状況下での事故に絞っている。鈴木氏は「こういう条件ならハイビームが基本になります」とし、
「たとえば真っ暗な田舎道で他の車通りがない状況ならハイビームを使うようにと、つまり『基本的なルールを守りましょう』ということだと思います。逆に言えば、そういう状況下でもハイビームにしないドライバーが多いとも読めます。普通にハイビームを推奨しても印象に残りづらいので、事故が減る可能性があるというセンセーショナルなデータを示したのかもしれません」
と話す。また「ルールに従えば都心では8~9割をロービームで走ります」とも述べていた。
ネット上でも「ハイビーム推奨も何も免許取る時習うだろこれ」「周りに車がいないときは基本ハイビーム 対向車や前に車がいる時はローに切り替える」と冷静に見る向きもあった。
ただ、そうすると実際の夜間運転中は、ハイビームで走行し、対向車などが見えたらロービームにする、すれ違ったらハイビームに戻す――とこまめに切り替える状況にもなり得る。鈴木氏は「面倒だと思う気持ちは分からなくはありません」としつつ「慣れの問題で、ウィンカーの操作なら多くの人は当たり前にできると思います。続けていればハイビームとロービームの切り替えも自然にできるようになると思います」と話していた。