米国を除く11か国で環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を発効する「TPP11(イレブン)」の行方が不透明感を増している。11か国は2017年11月に大筋合意を目指しているが、調整は難航している。8月末にオーストラリアのシドニーで開かれた11か国の主席交渉官会合では多くの課題を残したまま閉幕、9月下旬に日本で開かれる会合の行方も見通せない。
米国のトランプ大統領が17年1月、TPPからの離脱を宣言し、TPP発効は絶望的になった。TPPの発効には、国内総生産(GDP)の合計が全加盟国の85%以上を占める6か国以上の批准が必要で、1国でGDPの約6割を占める米国の批准なしに成り立たない。しかし今春以降、日本が呼び掛け、オーストラリアやニュージーランドが賛同する形で、米国を外した11か国だけでTPPをスタートさせようという調整が始まった。
「凍結」扱いを導入
だが関係者によれば「先行きは楽観できない」という厳しい状況が続いている。元々、超大国である米国を除いた協定の効果は各国にとって大きくない。多くの国は米国との貿易拡大を望むがために、厳しい内容をのんだ経緯があり、「米国が参加しないなら、同じレベルの内容を飲めない」という声が多いためだ。
交渉では、TPP11発効のため、苦肉の策として、米国がTPPに復帰するまで効力を発せず、復帰した場合に元の合意内容に戻るという「凍結」の扱いを導入した。8月末の会合では、製薬会社が新薬を独占的に販売できる医薬品データを8年間保護することなど複数の項目について、「凍結」の方向で固まったとされる。ただ、このほかに、どの項目を「凍結」扱いにするかは、それぞれの国内でさえ議論が割れているものが多く、調整がつくかはまったく予想できないのが実情だ。
そもそも、日本はなぜTPP11の発効に力を入れているのか。大きな狙いは、TPPを離脱した米国が今後、日米2国間の自由貿易協定(FTA)を要求してくる可能性が高く、その要求はTPPより相当厳しいものであると予想されるからだ。TPPのような多国間交渉では、米国はさまざまな思惑から妥協した部分も多かったとされるが、日米交渉になった場合、「日米安保が『人質』になり、日本は大きな譲歩を迫られかねない」(政府関係者)とされる。TPPでは一定程度「守った」とされるコメなど重要5項目の関税維持なども、どうなるか予断を許さない。
11月に向けて正念場
しかもTPPは元々、安倍政権が「アベノミクスの起爆剤にしたい」とアピールしてきた主要施策だ。TPPそのものが消滅してしまえば、安倍政権への風当たりがいっそう強まる可能性が高く、中身の実効性より「何とか形を残したい」というのが、安倍政権の本音とも言われる。
一方、「TPPはアジア太平洋地域の自由貿易には不可欠な協定であり、日本が主導して実現にこぎつける意味は大きい」(政府関係者)との筋論もある。
TPP11はどうなるか。11月に向けて正念場ともなっている。